『ウラもおもてもナイ』
ウダ・タマキ
(『別後 野口雨情』)
仕事の失敗、友人から告げられた寿退社。楓にとって散々な一日を終えて帰宅すると同棲中の自称占い師、俊太が呑気に眠っていた。ブチ切れた楓は俊太に別れを告げて追い出してしまう。翌日、荷物を取りに来た俊太は楓に今日のラッキーアイテムを記した便箋を残していった。果たして楓の運命は?
『おじょもが通る』
森本航
(『おじょも伝説』(香川県))
「おじょも」。それは、この地域に伝わる、山と川を生み出した伝説の巨人。仁美は、小学校時代に「おじょも」と呼ばれていた同級生と高校で再会する。ある日、仁美が酔っ払いに絡まれて困っているところに、「おじょも」が通りかかって……。
『傾国』
椎名爽
(『刺青』谷崎潤一郎)
大学生の清原は、小さな蜘蛛のタトゥーを入れた。一週間後、所属するサークルで地味な女子、園田と出会う。ある日の飲み会で清原は園田からいじめを打ち明けられる。清原は園田を家まで送るが、家に押し込められてしまう。園田は自らの女郎蜘蛛の刺青を露わにして誘惑し、清原を手中に落とす。
『われてもすえに』
霜月透子
(『詞花和歌集 巻第七 恋上 229番歌』)
古い根付けをなくした加代子は、根付けに込められた思い出を振り返る。昭和23年という戦後間もない時代に生まれ、裕福が故の疎外感を抱えつつ、貧しい和男と交流とも呼べないほどのささやかな繋がりを持った。親しさでも好意でもないもので紡いだ関係は、時には途切れながらも細く長く続いていく。
『葡萄』
白川慎二
(『檸檬』梶井基次郎)
仕事を辞めた僕は、熱を出して臥せっている。将来への展望も生きる気力も失いかけて、ぼんやりとする頭に過去の記憶ばかりがめぐる。やがて、冷凍庫の中に凍らせた葡萄がしまってあることに思い出して……。
『イチゴ沼』
柿ノ木コジロー
(『おいてけ堀』(東京))
夜勤帰りにふと立ち寄ったイチゴの無人販売にはすでに二組の客が。しかし、本当の脅威は実は、その売場そのものだった。
『ムのこと』
上田豆
(『姨捨山(大和物語)』(長野県))
物心ついたときからいつの間にか私の傍にいる「ム」。あるときわたしは「ム」を捨てることに決める。大和物語「姨捨山」を下敷きにした本作は、「捨てる」という「わたし」の心の動きに焦点をあて、古今変わらない人間の心の動きを書こうと試みました。
『なんとなく楽しい日』
真銅ひろし
(『浦島太郎』)
約28年ぶりに卒業した小学校にやって来た佐原浩司。目的はタイムカプセルを掘り起こす事。しかし小学校に勝手に入ることは出来ない。そして怪しげに校舎を覗いている時に一人の男性教員に話しかけられる。そして28年ぶりに見たタイムカプセルには佐原にとって予想外の言葉が書いてあった。
『彫刻男とカラス女』
井上苺
(『鉢かづき姫』(大阪府寝屋川市))
朝まで呑み明かし、始発で帰ってきた悠次郎は、駅のロータリーで黒ずくめの女に声をかけられた。高校の同級生だったという、野中仁美の顔を思い出せないまま、二人で朝日を待つことになる。他人に無関心すぎると言われ、彼女にふられたとぼやく悠次郎に、仁美は黒ずくめの理由を話し始めた。