小説

『なんとなく楽しい日』真銅ひろし(『浦島太郎』)

 ある日突然タイムカプセルを思い出した。
「なんて書いたっけ・・・。」
 小学6年生の時に書いた未来の自分への手紙。全く思い出せる気がしない。
「・・・。」
 スマホで自分の小学校を検索する。『福島県 海野小学校』と打ち込むと学校のHPがトップに出てきた。クリックする。
「・・・。」
 学校の画像を見てどこかホッとする。
 学校の歴史、行事予定、お知らせ、等の項目が並んでいる。そこからなんとなくHPを眺めていたが、本来の目的を思い出す。
タイムカプセルだ。
 確か校庭の端にある大きな木の下に埋めた覚えがある。そしてクラス全員で埋めたと思う。けれどどんな事を書いたかは全く覚えていない。
「んん~。」
 気になりだしたら気になってしょうがなくなるのが人間の性である。適当に部屋にあるジーンズを履き、外用のシャツを一枚羽織って外に出る。
「入れねぇだろうな・・・。」
 今のご時世簡単には校舎には入れてくれないだろう。誰か同級生の中に教師として小学校で働いている奴はいないかと頭を働かせる。
 しかし、その思考はすぐにやめる。そんな奴は知らない、というか同級生と誰ひとり連絡をとってはいないのだ。
「浩司、どこに行くの?」
 自転車にまたがった所でベランダから母親が出てきて声をかけてくる。
「ん、ちょっとそこら辺走ってくる。」
「あっそう、もしあれだったら車使っていいよ。」
「いや、別にそこら辺ちょこっとだから。」
「そう。行ってらっしゃい。」
「行ってきます。」

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