小説

『なんとなく楽しい日』真銅ひろし(『浦島太郎』)

 ゆっくりと、宝箱を開けるように丁寧に蓋を開けた。
 中はいくつもの紙が四角に畳まれており、面には自分の名前と「未来の自分へ」と書かれていた。
「これだね。何か凄くない?28年前のだよ。何を書いたのかな。」
「うん、そうだね・・・。」
 二人はまるで少年に戻ったように興奮を隠せないでいた。そしてそれぞれ自分の名前が書かれている紙を探して手に取る。
「せぇので開けようか。」
「うん・・・。」
「じゃあ行くよ。せぇの。」
 まさ君の掛け声と共に紙を開く。
「・・・。」
「・・・。」
 二人とも無言。
「まさ君、何が書いてあった?」
「俺?俺は『将来は天才作家』って書いてある。こうちゃんは?」
「俺は『こんなの見てんじゃねぇぞ!』って書いてある。」
「何それ、メチャクチャ叱られてるじゃん。笑える。」
「見ない方がよかったかな。」
「後の祭りだね。」
「そっちは天才作家になったの?」
「なってないじゃん。先生してるんだから。というか書いた覚えが全然ない。」
「俺も。」
 二人でなんとなく笑う。
「でもこうちゃんのは本質ついてるよね。」
「そう?なんか生意気じゃない?」
「自分の事だけどね。」
「まぁ、そうだね・・・。」
「なんか変な感じだね。」
「うん・・・。」
 少しだけ静かな時間が流れる。
「・・・ねえ、まさ君さ、時間あったらちょっとこの後飲みにでも行かない?」
「うん。俺もちょうど誘おうと思ってた。」
「これはそっと戻しとこう。俺は二度と見ないかな。怒られるし。」
「まさか怒られるとはね。」
「本当だよ。」

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