「出てけ! ふざけんな!」
「えっ」
「えっ、じゃないわ! ドアホ!」
潤んだ目を丸く見開き俊太が固まった。何も言い返せないのがまた、腹立たしい。
「はよ荷物まとめろ! いや、私がまとめてドアの前に置いとくから明日の朝に取りに来い!」
「なんで急に・・・・・・」
「なんでもクソもあるかっ! 私は必死に働いてるいうのに、あんたはグウスカ呑気に寝やがって!」
「だって、僕はこれから仕事だから」
「だってやない! 仕事ってのは社会に役立って人様に感謝されてナンボや! 自分の将来も定まらんくせに何が占い師やねん!」
久しぶりにキレた。喉がひりひりと痛み、肩が上下に激しく揺れていた。
「わかった。今までありがと」
私は何も返さず背を向けた。引き止めてほしいのか、緩慢な動きで服を着て、とりあえずの荷作りをしているのが気配で分かった。しかし、私は振り返らない。俊太が出て行き、ドアが閉まるその瞬間まで絶対に。
「鍵、置いてってよ。二度とツラ見せるな」
静かなトーンで告げると、ガチャンとテーブルの天板にぶつかる金属の鈍い音が響いた。怒りの感情の奥から寂しさが込み上げてきたが、私はぐっと唇を噛む。
「じゃあ」
余韻を残そうとする「じゃあ」に右手を軽くあげて応える。開いたドアを通り抜ける秋風が、レースのカーテンをなびかせて私の顔を覆った。その裾を両手でくしゃくしゃに丸め「ゔぅわぁぁぁ」と、奇声に近い叫び声をあげて窓に向け投げ付けた。