小説

『ウラもおもてもナイ』ウダ・タマキ(『別後 野口雨情』)

 これで、終わりだ。
 せいせいしたはずなのに、テーブルの上に残された鍵を見て止めどなく涙が流れた。

 今日は全てが良くなかったんだ-

 面接に同行する予定だった求職者が約束の時間に姿を見せず、電話にも出ない。やむなく一人で謝罪に行った採用担当者からは罵声を浴びせられ、一週間以内に別の求職者を探すようタスクが課された。肩を落として帰社した私にかけた部長の言葉は、傷口に塩だった。
「君は人を見る目がないよ。求職者のことをよく知ってから企業様に紹介しないと」
「はい、気を付けます」
 深く頭を下げてはみたが、悪いのは私じゃなくないか? と思いながら脳裏に浮ぶのは俊太の顔だった。

 人を見る目がない、か・・・・・・部長、正解。

 家路を急ぐ駅へと向かう人混みの中、追い込み馬の如く後方へと流れていく私の肩を誰かが叩いた。
「よっ!」
「綾香かぁ。びっくりしたよ」
「すごい負のオーラが漂う後ろ姿。どした?」
「いや、別に何もないよ」
「ねぅ、ちょっと時間ある? 一杯だけ付き合って」
 同期の綾香はいつもさりげない優しさで私を励ましてくれる。だから、ただの同僚から友達になった。
 行きつけの居酒屋は水曜とあって閑散としていた。私たちはカウンターに肩を並べて座りレモン酎ハイと枝豆を摘んだ。
「実は私ね、近いうちに退職するの」
「えっ?」

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