『雀の子』
珊瑚
(『舌切り雀』)
戦前が舞台。子を流した私に対し、夫は余所に作っていた娘を引き取ると伝える。私は愛憎に揺れながらも、素直な娘を可愛がり、仲良く暮らす。娘の食物アレルギーが判明し、私はつい、駄々をこねる娘の舌を切ると脅す。娘は家を飛び出し誤って死ぬ。私は空想のつづらから思い出を取り出して眺める。
『歩み』
ウダ・タマキ
(『うさぎとかめ』)
金こそ全て!そう考えて生きてきた男が脳梗塞で倒れた。これまで、寝る暇さえ惜しんで働いてきた男に残った、半身麻痺と言語障害の後遺症。男は日常生活すらままならない状態となってしまった。自身の会社も失い、自暴自棄になった男だったが、少しずつ生きる希望を持つようになる。
『泡沫』
白川慎二
(『蜘蛛の糸』)
主人公は高校へ行かなくなり、以来三か月ほど自室に引きこもっていた。生活も昼夜逆転し、どうしようもなく長い夜をひたすらテレビゲームをすることでやり過ごしている。そんなある日、ゲームをしている彼の腕につうっと蜘蛛が降りてくる。
『乾いた水槽』
和織
(『夢十夜(第八夜)』)
月曜日、飼い主を探して、人の髪を切る金魚たちがいた。「僕らは売り物じゃないんです。オーナーに餞別された観賞用の魚で、非売品の水槽に入れられています。だからこのままだと、一生あの店を出ていけないんです」
『うたかた』
観月
(『人魚姫』)
月夜の晩に人魚たちは嵐を起こし、人間を襲う。だがリュリは人間を食べることを嫌い、ある日、海に落ちてきた人間の男に恋をしてしまった。一方、人間の裏切りにあい、今では海底に一人で暮らしているなみ。藍色の魔女と呼ばれるなみのもとへ「人間になれる」薬を求めてリュリが訪ねてくる。
『僕が僕であるためのセルフイメージ』
サクラギコウ
(『みにくいアヒルの子』)
同窓会には一度も出席したことがなかった僕は、今回も案内状をゴミ箱に捨てた。故郷の記憶が嫌いだった。ただ存在していただけの僕のセルフイメージも最悪のものだったからだ。だが行くつもりがなかった同窓会へいくことになり、忘れていた記憶が蘇ってくる。
『テクテクと歩く』
真銅ひろし
(『三年寝太郎』)
10年間引きこもっていた男がある日近所を散歩する。特に目的があるわけではないがテクテクと歩く。歩く。自衛官募集のチラシを見つけたり、高収入のチラシを見つけたり、可愛い犬と少しと触れ合ったり、なんやかんや思いながら歩く話。
『人工現実感』
太田純平
(『昼の花火』)
宇宙船を模した乗り物に乗った。「ほらもっと頑張って!」と左から彼女の声。頑張っている。必死にペダルを漕いでいる。なのに全然前に進まない。好きな子と遊園地に来たはいいが、俺の心はモヤモヤしていた。彼女が待ち合わせに遅刻したからではない。彼女は何かを隠している。何かを――。
『キャンディチョコレートスナック』
柿沼雅美
(『お菓子の大舞踏会』)
僕はアイドルが好きで好きでしょうがない。ノートPCでリモートワークをしながら、デスクトップでアイドルの配信をチェック。こんな情勢にアイドルは癒ししかない。哀れに思う?ごめんだけどひとつのことを14年も続けるのは才能だよ。そんな僕に、メンバーからまさかのプレゼントが届いた。