小説

『僕が僕であるためのセルフイメージ』サクラギコウ(『みにくいアヒルの子』)

「記念すべき第10回目!」とポップな文字が躍っている。幹事は三山だ。張り切っているのがよく分かる。年々出席者が減っているのだろう。今回の同窓会は学年合同で行われるとある。
 第一回から地元に残った三山が幹事を引き受けている。こういうことは地元組で世話好きなヤツじゃないと続かない。中学を卒業してから20年近くなるが、あいつはあの時のままのようだ。

 ゴミ箱に捨ててあったハガキを沙耶が拾い上げて言った。
「行かないの?」
 中学の同窓会は一度も参加したことないと答えた。行くという選択肢がなかった。会いたい人もいない。金と時間を使ってわざわざ帰郷する気など1ミリもなかった。
「え、虐められてた?」
 一度も参加したことがないと答えた僕に沙耶が驚いた顔で訊いた。
 大学以外の同級生の繋がりはなかった。高校も進学校ということもあり、卒業時わざわざ「同窓会はしない」と全員一致で決めた。だからそんなものだろうと思っていた。昔を懐かしみ、いそいそと帰郷する人ばかりではない。少なくとも僕は違った。
 沙耶に虐められていたと思われたくなかった。だから「そんな筈ないだろ!」と返事をした。少し語彙が強かった気がする。沙耶は「そんなに怒ること?」という顔をした。

 僕は中学時代の想い出がほとんどない。いつも周りとトラブルにならないようにしていたからだ。あいつは輪の中に入ってこない、マイペースで人との関りを嫌うヤツだと思ってもらいたかった。ほっといてもらいたかったのだ。だから僕は中学入学と同時に帰宅部で塾通いのガリ勉野郎になった。
「必ず、この町から出てやる」
 その思いだけで中学の3年間をやり過ごした。努力の甲斐あって高校は隣町の進学校へ合格した。さらに大学は東京の一流私立に進学し、誰もが知るIT企業に就職した。
 兄は両親の家業を継いだ。町の小さなクリーニング屋だ。昨年地元の同級生と結婚した。

 沙耶に指摘されて改めて思い出したことがある。
 小学6年の三学期だった。クラス全員に無視されたことがある。原因は三山だった。三山は人が良いが優柔不断で、約束を平気で破ることがあった。そのことで僕と三山は喧嘩になったのだ。今でも思い出せないぐらいの些細な約束だった。
 僕は「僕は悪くない。約束を守らなかった三山が悪いのだ」と思った。だがクラスの反応は違った。喧嘩のあと、三山は普通に受け入れられ、僕は仲の良かった友人たちから無視された。今でも理由がよく分からない。子どものことだ。大した理由があったわけではないのだと思う。ただ彼らは、僕のどこかに攻撃の芽を見つけたのだ。彼らのするシカトや遊びに誘わないなどの行為は、彼らなりの落としどころだったのだと思う。

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