小説

『ラグナグの鏡』風呂屋龍乃介(『ガリバー旅行記 第三篇』)

 悶々と考えているうちに、激安な会計が言い渡され、その日はお開きとなった。

 本当にGなのか。それとも、ただの冗談なのか。俺はさらに疑惑の沼へと埋没していく。
ここから抜け出す一つ。
 今西さんをさらに深く知ることだ。これは俺のミッションだ……と自分を強く洗脳してみる。
 俺は今西さんの研究テーマをハッキングして調べ上げ、それに関連するドキュメント映画を見つけてきた。
「俺もこのテーマに興味あってさ!」
 と嘯き、今西さんと映画(内容はかなり重いが)を観に行くことに成功した。

 待ち合わせた俺に笑顔で手を振ってくれたり、俺のつまらない冗談にも丁寧に反応して笑ってくれたりと、毎回、今西さんの魅力ある言動によって、彼女の「正体」を判別するという使命を八割方忘れてしまう自分が情けなかった。
 それでもやはり、映画の座席に座る時は、大きく溜息を吐いたり、終わって座席を立つときは腰をトントンしたり、駅前で配られた怪しい一日きりの高級品叩き売りセミナーのチラシを見ると「これ行ってみたい!」とか言ったり、知れば知るほど、新しいG疑惑が更新されるばかりだった。
 やはり今西さんは、Gの可能性が非常に高い。
 例えば、俺が勇気を振り絞って告白して、付き合ったとしたら、当然、若人としては、肉体関係に行きつくだろう。
 肉体関係はある意味、スポーツだ。一回の行為は徒競走において、百メートル走るのと同じだと言われている。もし、今井さんの中身が80過ぎの老婆だとしたら、昇天させてしまうかもしれない。
 もう、調査はやめて、距離を置いたほうがいいのではないか。
 そんなことを考えながら歩いていると、いつも間にか大きな池がある公園に行きついた。
 多くのボートが池に浮かんでいる。
「乗る?」
 俺が冗談半分で言うと、今井さんは大喜びで頷いた。
 まずい。
 俺はボートなんて漕いだことがない。
 案の定、漕ぐと、ボートは明後日の方向へ向かっていった。
 バリバリバリ! ボートが池の周りに生えている桜の枝にひっかかる。俺は焦って、パドルを力任せに上げると、大量の水が顔に降りかかってきた。
「うは!」
 それでもなんとか桜の枝から逃れ、再び池の中央へと戻ることが出来た。
「ふー」 
 俺が大きく溜息をつくと、今西さんは笑いながらハンドバックからハンカチをだし、両手がふさがっている俺の顔を拭いてくれた。
「え、あ……」
 気まずい。視線の行き場を探す。

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