『世界一有名な遠距離恋愛』
香月彩里
(『七夕物語〜織姫と彦星〜』)
織姫と彦星は、年に一度七夕の日だけ会うことを許され、織姫はカササギの背中に乗り彦星の元へと会いに行っていた。長年、遠距離恋愛をしてきた二人だが、ある日カササギは彦星から「織姫と別れたい」と打ち明けられる。別れたい彦星と、彦星にぞっこんの織姫との間に挟まされ奮闘するカササギの物語。
『鬼の勇気』
比良慎一
(『桃太郎』)
矢吹は舞台で桃太郎の鬼を演じていた。しかし、矢吹にはある疑問があった。それは、鬼が悪さをした証拠はあるのか、というものだった。もし冤罪だったなら、復讐に燃える鬼と桃太郎の戦いは、これから始まるのだと矢吹は考えた。世間が知る桃太郎はまだ序幕なのだ、と。
『みみみみみ』
香久山ゆみ
(『耳なし芳一』)
ある朝突然、右耳が聞こえなくなった。おそらく亡き母が持っていったのだろう。私は良い娘じゃなかったから、それで親孝行になるなら構わない。どうせ私の話など誰も聞いていないのだし。けれど、片耳しか聞こえないのはやはり不便で、私は息子とケンカしてしまう。
『てぶくろを買いに』
ウダ・タマキ
(『手袋を買いに』)
康平に先立たれた理恵は、五歳になる息子の優人と二人暮らし。優人は可愛いが、二人だけの生活には寂しさと不安が募る。友達の影響を受け、何でも買ってほしいとねだるようになった優人が、今度は手袋を買いに行きたいと理恵に言った。お年玉でもらった自分のお金を使い、自分一人で選びたいらしい。
『笑顔のセンス』
永佑輔
(『大鏡 競べ弓』『平家物語 扇の的』)
伊代は藤原と交際して一年。藤原は胎児のエコー写真を見つけて伊代の妊娠に気づく。だが伊代は「生まない」と冷淡。藤原は丸めたティッシュをゴミ箱に投げて、入ったら生む、入らなかったら生まないというゲームを思いつく。伊代は、命の行方をくだらないゲームで決めようとする藤原に呆れる。
『とある求婚難題譚』
川瀬えいみ
(『竹取物語』)
美人で有能、性格もいい。バツイチであること以外、欠点らしい欠点のない葉月さんに、僕は、三度交際を申し込んで、三度断られた。かぐや姫のように求婚承諾のための難題を出してほしいと訴えた僕に、彼女は、「不老不死の果実が欲しい」と呟く――。
『アマエビください!』
粟生深泥
(『アマビエのお話』)
“僕”がバイトをするスーパーに「アマエビ」を求める少女がやってくる。話を聞いてみると少女が求めるのは頭痛の母親を癒すための「アマビエ」の絵だった。かつて絵を描く仕事をしていた僕は少女の為にアマビエの絵を描きながら、絵を描きたくても描けなくなった胸の奥に巣くう病に思いを馳せる。
『未来老人』
関根一輝
(『かぐや姫』)
ある日息子の優太が、「未来」という言葉しか発しない老人を家に連れてくる。老人は一週間ほど居座り、徐々に家族の信頼を得る。ある日私は老人に、一緒に遊園地に行こうと提案するが、老人は頑なに断る。その後、唐突に表れた老婆に連れられて老人は去って行く。未来とは…。老人が来た理由とは…。
『灯油売りと少女』
宮沢早紀
(『月の砂漠』)
高校生の涼は灯油販売車から流れる「月の砂漠」を聞き、砂漠を行く旅人と転居の多い自身の人生を重ね合わせる。一方、灯油販売車に乗って住宅街を回る修史は友人である焼き芋屋の引退によって厳しい現実を突きつけられたように感じ、転職を考えはじめる。涼と修史、交わることのない二人の物語。