「苦しくても生きれてしまうんが、怖いんよ」。買いもの帰りのトミナガが通ろうとしていた橋の上にひとがいる。それは大学時代からの友人であるキタノで、防護柵に足をかけていままさに飛び降りようとしていた。
思えばポチとは、随分と長く一緒にいたものだ。嫁さんが亡くなってから俺がおかしくもならずに、こうして平穏気ままに暮らしてこれたのは、いつだって隣にポチがいてくれたからだ。
高校生の美音は軽音楽部のリードギター。憧れのギタリスト、JUNを目指し練習に励んでいる。ところが文化祭の前日、宮大工の父が足場から落ち意識不明の状態に。悲しみに暮れる美音が父のヘルメットをかぶると頭から離れない。美音とバンド仲間はヘルメット姿で文化祭に登場、そして奇跡が起きる。
高校一年生の幸(さち)と有(ゆ)希(き)は、林間学校のオリエンテーリングの最中にマヨイガへと迷い込む。幸がパニックになる反面、有希は冷静だった。その理由を、マヨイガから出た後に有希は幸へと伝える。
戦争中のとある国。どんぶら子が川で軍服を洗う仕事をしていると、自分を「国の犬」だというサボり兵隊に出会う。戦争孤児で母の愛を知らない彼に、「無事に帰る日」を願って息子に渡した「帰日団子(きびだんご)」の話をするぶら子。帰日団子を手にした彼は、死を覚悟しながらも軍へと戻っていく。
林間学校の夜。担任教師が生徒に東北地方に伝わる座敷ボッコの話をした。それは、10人の子供がある遊びをしていると、いつのまにか1人増え11人になっていたという物語。その話はクラス中で知れ渡り、生徒たちは座敷ボッコごっこをした。何度も何度も行った。翌朝、生徒がとんでもない数に増えていた。
山口県下関市在住の盲目のラッパー、芳一は、ある夜、クルーズ船に招待されてライブをする。壇ノ浦で三十年前に起こったクルーズ船の衝突事故の悲劇と世の無常をラップで謡(うた)い語る。芳一には見えなかったが観客はみな死人だった。亡霊に取り憑かれた芳一は、元僧侶に助けを求める。
「竜宮城発見か」と騒ぐワイドショーを聞くともなしに聞きながら、俺は部屋の片付けを進めた。「他国の調査設備かもしれません」「蜃気楼のように消えちゃうんでしょ? どんな技術で……」「調査の結果を待たないと何とも……」
陽菜と陽菜。同姓同名の私たちは名前のほかは似ても似つかない。あっちの陽菜は『可愛い方』で、私は『可愛くない方』。人に愛され、庇護欲を掻き立てる存在になりたいと思いつつも、外見のせいで損ばかりしていると思っている私。密かに恋していた新藤も陽菜にラブレターを送ったと知り……。