『星のブランコ』
香久山ゆみ
(『羽衣伝説』(大阪))
降星伝説の残る星田山へ、ひとり到る専業主婦の私。夫との関係は上手くいっていない。日本最大級の木床版人道吊橋「星のブランコ」を渡る。不安定に揺れ、私の心のよう。当地には羽衣伝説も伝わるが、私の羽衣も夫に奪われ現状に縛り付けられている。息苦しい日々。失った羽衣を探し、私は山を登る。
『神推し』
花園メアリー
(『古事記』)
推し活にハマっていたわたしは「神」である夫と、奇跡の「推し婚」をした。本業とバイトを掛け持ちする夫と、つつましくも幸せな結婚生活を送っていたのだが、今夜、わたしには夫に秘密で出かける場所がある。推しと結婚してもあきらめきれないほど魅力的な場所で、わたしが目にした衝撃とは。
『夕顔とふうせんかずら』
菅野むう
(『源氏物語』より「夕顔」)
夕子と和良は仲の良い姉妹で親の遺した古い家に暮らす。美しい夕子には日向野玄という美男の恋人がいて、週末は三人で過ごしていた。ある日夕子が不在の折、玄は和良に思わせぶりな態度を取る。心を動かされつつも嫌悪感を露わにする和良。結局夕子と玄は別れるが、姉妹は気持ちを新たに前進する。
『ごんの贈り物』
yoko
(『ごんぎつね』)
ごんが死んでから6年の歳月が過ぎました。兵十は妻と子と3人で幸せな生活を送っています。息子を寝かし付ける時は、決まってごんの昔話を聞かせる等、6年が経った今も、ごんは兵十の心の中に生き続けています。そんな兵十の幸せは、実はごんからの贈り物だったのです。さて、それはどんな贈り物だったのでしょうか?
『凡人』
山賀忠行
(『杜子春』)
表札の裏側に別人の名前が書いてあることに気が付いた私。特に何もしなかったがあることをきっかけに私はその別人としての人生を歩みだす。順調に成功をおさめ有名小説家となった私。金も名誉も手に入れた私が感じたこととは……
『イマジナリー孫』
柿ノ木コジロー
(『舌切雀』)
―― あ……ばあちゃん? 次の語を発する間もなくいきなり叫び声が耳に飛び込み、思わず携帯を取り落としそうになった。「ショウちゃん? ショウちゃんかい?!」いざとなったらすぐに切れるように緩い持ち方をしているせいだ。
『歳蕎麦』
藤咲沙久
(『時蕎麦』)
落語『時蕎麦』をご存知だろうか。詐欺を目撃した男が手法を真似ようとして下手を打つ笑い話だ。しかし、それをさらに目撃した人物がいたとしたら。奇妙な支払いの謎に迫り、時蕎麦ならぬ“歳蕎麦”などという詐欺を生み出すとしたら。これはそんな、楽しく美味しく微笑ましい、想像の後日譚である。
『武道家たちの恋』
川瀬えいみ
(『鬼娘』(青森県津軽地方))
武道は、礼に始まり、礼に終わる。他者への感謝と尊敬の念を忘れることなく、勝って驕らず、負けて腐らず、常に次の攻撃に備える。それが、武道家の心得である。そんな武道(弓道)を嗜む者たちが恋をした。彼等の恋の最大の障壁は、なぜか身長差――。
『鮒になった男』
金子真梨子
(『鮒女房』(滋賀県/琵琶湖))
琵琶湖で魚を釣って暮らしている源は、ある日傷ついた鮒を釣り上げる。その傷の手当てをして湖へ帰した翌日、漁から戻った源の家の前に、ひとりの女が佇んでいた。ふたりは共に暮らすようになり、慎ましくも幸せな日々を過ごしていたが……。琵琶湖に伝わるとされる、しっとりと美しい純愛異種婚姻譚。