てっきり今日はバイトの夜勤だと思っていた夫が、実は休みになったのだと聞いてわたしはあせった。
今日の夜は困る。わたしは夫には秘密で、出かけるつもりでいたのだ。
おいしそうに晩酌のビールを飲みながら、テレビを見てのんきに笑っている夫の隣で、わたしはうしろめたさのあまり、どんどん無口になっていった。
わたしの夫は神だ。
比喩ではなく、正真正銘、本物の神である。
だけど神としての生業だけでは全然、食べてはいけないので、しかたなしに人間もやっているのだ。
日本の神業界ときたら本当に厳しい。
なにせ神社の数はコンビニよりも多いし、日本の総人口の約七パーセントにもあたる八百万もの神がいるときているのだから。
実際に神専業で食べているのは、せいぜいトップ四百柱ぐらいだそうだ。
残り大勢の神々たちは、生活のためにバイトで人間業をしなければならないのが現実だ。
だが、最初はただのバイトだと割り切って始めた人間業も、本気でやろうとすれば結構エネルギーが必要だし、それなりにやりがいなんかもあったりするので、神であることをすっかり忘れ、人間の方が本分になってしまう神も少なくないという。
実のところ、わたしの夫もかなり、そうなりそうな気配がある。
結婚する前の夫はまだ神専業で、人間離れした神々しいオーラでわたしの全身全霊をとりこにし、畏怖させていた。
そう、夫はかつて、わたしの「推し神」だったのだ。