小説

『星のブランコ』香久山ゆみ(『羽衣伝説』(大阪))

「星のブランコ」――大阪の生駒山系にある全長280メートルの吊橋で、歩道専用橋としては日本第三位の長さを誇る。
 周囲の木々が黄金に色づいている。平日にも関わらず、家族連れやカップル、登山客のグループで賑わっている。私はひとり吊橋を渡る。足元からゆらゆら揺れが伝わってきて、不安定な心持ちになる。以前来た時には、怖いと感じることもなくスキップするみたいに渡ったと思うのに。
 日はまだ高い。
 今朝、息子をいつも通り保育園へ送り出してから、リュックを背負って電車へ駆け込んだ。誰にも告げずに。お迎えは16時。それまでに帰らなきゃならない。
 長い吊橋を往復して戻る気にはならず、そのまま山頂を目指して進むことにした。
 結婚前に夫と来た時には、ピークを一つも踏むことなく帰路に着いた。いや、妙見山には登ったか。
 ここ星田の地には、星にまつわる様々な伝説が残る。羽衣伝説やそこから派生した七夕伝説、また空海の法力により北斗七星の降った地でもある。いずれも記録上二番目に古い平安時代にこの地に隕石が降ってきたことに由来するのだと思う。そのような伝説を有する星田妙見宮に夫と参拝したことがある。

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