小説

『武道家たちの恋』川瀬えいみ(『鬼娘』(青森県津軽地方))

 俺が弓道を始めたのは高校二年の春。
 自分で言うのは口幅ったいが、俺は子どもの頃から体格がよく、運動神経にも恵まれていた。
 小学校ではサッカーとバドミントン、中学校では野球とテニス、高校に入ってからはバスケットボールと、いくつかのスポーツに取り組み、どのスポーツでもそれなりの結果を出してきた。少なくとも、学校のクラブ活動でレギュラーに選ばれずに悔しい思いをしたことはない。
 だが、俺は、基本的に陰キャなんだ。いや、違うな。俺は“陰気”なんじゃない。単に“陽気じゃない”だけ。
 俺は、スポーツで点を取ったり、試合での勝ちが決まった時に、感激して派手に喜ぶことができないんだ。そのせいで、チームメイトに『乗りが悪い』だの『お高くとまっている』だのと煙たがられる。
 俺が好成績を収めれば収めるほど、チームの雰囲気が悪くなり、『これはまずい』と慌てて退部。その繰り返し。
 だが、試合での優勢や勝利を手放しで喜ぶという行為が、俺にはどうしてもできなかったんだ。
 試合での優勢や勝利は、その時だけのこと。次の場面、次の対戦では状況が変わり、敗北を喫することになるかもしれない。今だけの優勢、今日だけの勝利を無邪気に喜ぶことに、俺は躊躇いを覚えずにいられない。
 それを陰キャの特性と言うのなら、確かに俺は陰気な男なんだろう。
 これまでそうだったように一年生でレギュラーに選ばれ、チーム内での居心地が悪くなり、そろそろバスケ部をやめるべきかと考え始めていた時、弓道部の顧問を務めていたクラスの担任が俺に声をかけてくれたんだ。

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