小説

『イマジナリー孫』柿ノ木コジロー(『舌切雀』)

―― あ……ばあちゃん?
 次の語を発する間もなくいきなり叫び声が耳に飛び込み、思わず携帯を取り落としそうになった。
「ショウちゃん? ショウちゃんかい?!」
 いざとなったらすぐに切れるように緩い持ち方をしているせいだ。
 あちらは、その後も「ショウちゃん」を繰り返している。受話器を押えて泣いている声が漏れている。
 これは極上のカモになる、予感が小躍りしながらそう俺に告げていた。
 ようやく、電話口の声が戻ってきた。
「ずっと連絡なかったから、父さんも母さんももう諦めてたんだよ、でもばあちゃんは諦めてなかったんだ、ほっんと、ほんと良かった、まさかショウちゃんが電話くれるなんて。二年ぶり、ううん、三年ぶりだよね、ばあちゃんのこと、忘れてなかったんだね」
「うん……ごめん」
「謝る事なんてないさ」
 電話の向こう側は、涙声ながらも、笑って言った。だが、続く言葉に俺は思わず凍りつく。
「アンタに上げたんだったら、三百万でも四百万でも惜しくないさ、それであのシゴトは上手くいったのかい?」
「う……ああ、あの時は」
 もしかして、以前にもこの婆さんは金をとられていたのだろうか? しかも、実の孫に。
 つい慎重な受け答えになってしまう。
「ありがとう、ばあちゃん。おかげで助かった」
「そんな、他人行儀なこと言うんじゃないよぉ」
 朗らかな笑い声が響く。俺は思わず生つばを飲み込んでいた。
 そこまで、孫と声が似ているのだろうか?
 しかし、次に何と言えばいいんだ?
 心配とは裏腹に、相手は次々と余計なことを話し始めた。よほど電話がうれしかったのだろう、俺には好都合だ。

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