小説

『イマジナリー孫』柿ノ木コジロー(『舌切雀』)

「みいちゃんも連れて来ちゃったよ、アタシも兄ちゃんに会いたい、って。もちろん、父さんと母さんには内緒でね」
「み、みい?」俺の声はまるで情けない仔猫じみていただろう。
「兄ちゃん」
『妹』も俺のことを兄だと勘違いしているらしい。怒った顔で頬を染め、目は潤んでいる。
「ばあちゃん、ずっと心配してたんだからね」
「ごめん」
「まあいいさ」婆さんは急に元気になる。
「久しぶりにご飯一緒に食べよう。どうせアンタいつも朝遅いから昼はまだだろう? ショウちゃんみいちゃん、何がいい?」
「あそこがいい」娘が駅ビルの三階を指さした。月並みなファミリーレストランだが、俺も同意して二人の後に続いた。

 食事ではほとんど気を遣わずに済んだ。婆さんがほぼしゃべりっ放しだったから。『ショウちゃん』の美しい思い出だけでも腹がいっぱいになりそうだった。『好物』のドリアも二皿食べさせられた。
 娘(名前不詳)はほとんどスマートフォンに目を落としたままで、たまにドリンクバーに行って婆さんと俺の分まで適当に飲み物を持ってきてくれたので、段々と俺も気にならなくなっていた。

 外がうっすらと暗くなった頃、婆さんは脇の娘から肘をつつかれ、ようやく帰る気になったようだった。
「これ、そのまんま持って行っとくれ」
 キャリーケースから黒い布製のバッグを取り出す。四角くて、ノートパソコンでも入っているのかという見てくれだが、中身はぎゅうぎゅうに詰まっているようだ。
「あんたのリュックにそのまんま入れられそうかい? 大きいペットボトル二つ分くらいは重いんだろ? 大丈夫?」
 実際は約2.5キロだ。俺は笑って「大丈夫だよ、それよかこんな重いもの運んできてくれてありがとう」心からそう言った。

1 2 3 4 5 6 7