小説

『イマジナリー孫』柿ノ木コジロー(『舌切雀』)

 しかし、続く言葉に耳を疑う。
「ぴったり一憶にすれば、いいんじゃないのかい? だったら二千五百まであたしが出すから」
「ばあちゃん……」
「たぁだし」また声に張りが戻って、俺はつい背筋を伸ばす。
「こないだみたいにレターパックじゃあ、もう送れないからね」
「えっ」
 孫はレターパックを使ったのか、今の俺のやり方もまさにそうだ。住んでいるアパートに空き室が多い割に郵便受けが管理されていない。不動産屋がいい加減過ぎる。それを逆手にとって、他所の部屋宛てにレターパックを送ってもらい、俺が受け取る。向かいのアパートも、二軒置いた隣のアパートも同じ不動産屋の管理だった。そしてそちらも空き家が多い割に管理がずさんだ。俺の方は、携帯電話は三つ持っているし、受け取りにたまにバイトを雇って口止め料も多く払っているしで、額の大小はさまざまだったが今までの十件あまり、全然足がついていなかった。
 しかしこの婆さんは、どうするつもりなのだろう。レターパックならば内容物を偽ればいっぺんに送るのは可能だが、二千五百万円は引き出すのに一苦労だ。
「だったらさ、直接会って渡すよ。お金も今なら手元にあるしね」
「そ、それは」
 つい弱気な声になる。
 ATMでの問題は軽くクリアしている、それに同窓生名簿の住所ならば、婆さんの家は電車を使えば一時間以内で行ける場所だと思うのだが、こちらの姿を見せればすぐにバレるだろう……孫ではないことが。
「いいじゃないか、善は急げだよ。日曜の昼過ぎでどうだい」

1 2 3 4 5 6 7