「学校を黙って止めたのだって、お友だちとビジネスやるつもりだったんだろ? ほら、中学の同級生の何だっけ、ヨシダくん、コンセントの特許取って売るって、父さん母さんあんなに怒らなくたっていいのにね、ヨシダくんの実家にも電話したって、ヨシダくんも『全然聞いてない』なんて言うから、それに他の同級生からもお金借りたって聞いてさ……お友だちの分は数万ずつだったんで一軒一軒回って謝ってお返ししたけど、それからすぐアンタと連絡取れなくなっちまったんで、アンタの方がどこかに騙されたんじゃないかすごく心配したんだよ、パスポートも取ったらしいって言うから海外の組織に騙されたのかも、って」
俺が言うのも何だが、このばあちゃんの孫、かなりヤバそうだ。
「あ、ああ、借金のことは悪かったよホント、でもあの仕事は一通り上手く行ってね」
「さすがショウちゃん、あたしの自慢の孫だよ」
「今、家には他にだれか?」誰かに替わる、と言ったら切ろう、でなかったら……
「ふたりとも相変わらず仕事シゴトさあ。上海から帰って来てからずっと帰りが遅いのよ。みいちゃんも今日は学校。でさ、どうしたの今日は」
羽振りは良さそうだ。よし、勝負だ。
俺は軽い世間話を装う。
「今度、カリフォルニアのIT企業から共同出資を持ち掛けられちゃって」
「すごいじゃないか!!」本気で感心している。
「そこに自分の持ち金を投資しても、少し足りないんだよ……」
友人に対する借金の肩代わりまでさせて、更に追い金、よくよく悪い孫だ。
いや、借金の肩代わりは俺のせいではない。何だか混乱してきた。
しかしここは千載一遇のチャンスかもしれない。俺は声を励まして続ける。
「心苦しいんだけど、あと五百万あれば八千万に届くんだ、だから」
「八千、ってなんでさ」
少しだけ電話先の声のトーンが下がり、俺は身をこわばらせる。まずい、でもあっちは非通知の電話に出るような手合いだ。最悪、罵られて受話器を叩きつけられるだけだ。