『蟻の恩返し×増殖』
五条紀夫
(『鶴の恩返し』)
蟻の巣に水を注いで遊ぶ子供たち。その姿を見た俺は彼らを咎めた。その翌日のこと、女性に化けた蟻が家にやって来た。蟻いわく、恩返しに来たらしい。断っても引き下がる気のない彼女に押し切られ、身の回りの世話をして貰うが……
『大阪アルプス』
香久山ゆみ
(『天保山の故事(大阪)』)
天保二年に人工的に築かれた天保山、それから139年後昭和に新たに造られた山は天保山の故事に因み昭和山と名付けられた。大阪市が誇る新旧二座を、職場の先輩・後輩コンビが登頂目指して進む。日常の中の冒険、腹の探り合い。コロナに負けない!
『夏の夜』
平大典
(『古事記』)
俺は妻子と一緒に地区の夏祭りに出かけた。そこで、俺は死んでしまったはずの旧友と再会して……。
『座敷童子たちの庭』
川瀬えいみ
(『座敷童子の伝説』(岩手県))
子供の頃は、座敷童子のいる庭で幼馴染みたちと楽しく遊んでいた。その思い出以外に何もない故郷にツトムが帰ったのは、都会で過ごした数十年の月日が、ツトムに何も残してくれなかったから。半世紀ぶりに帰った故郷の村で、ツトムは思いがけない再会を果たす……。
『嘘とウソ』
宮沢早紀
(『早池峰山の神様(岩手県花巻市)』)
婚約者の母・幸子はかわいいという理由で卯年と偽っていた。婚約者である直樹からこの話を聞いた薫は、自分とタイプの違う幸子を理解できずにいた。二人きりになった時に幸子から嘘の真相と早池峰山の言い伝えを聞いた薫は、薫なりの解釈を示すことで幸子とうまくやっていく自信をつけるのだった。
『ひらいてひらく』
小山ラム子
(『鶴の恩返し』)
小学六年生の新太は、ある日、隣のクラスの美羽が家の鍵を公園の噴水に落として困っているところに出くわす。翌日、美羽がクラスの男子に意地悪をされていたことが分かり、その場でかばう行動をした新太だったが、美羽はそれを喜んではくれなかった。
『花が咲きますように』
霜月透子
(『花咲かじいさん』)
シロは女友達のサチと一緒に地元の街に帰った。十年ぶりだった。高校時代、花火大会の日、自分のせいで怪我をさせたハナに合わせる顔がなかったためだ。偶然再会したハナは視力が低下していてシロのことに気付かない。シロは正体を隠したままハナと親しくなっていく。
『あれはきっと、同じ月』
草間小鳥子
(『やまんばのおはなし(福岡県糟屋郡志免町)』)
娘の琴音と二人で暮らす織子には、悩みがあった。日々の家事と育児、仕事に追われ、一日に琴音と向き合えるのは、幼稚園の行きと帰りに月を見上げるほんのわずかな時間だということ。でも、いつかきっと、月から金の鎖がおりてきて、私たちをここから引っ張り上げてくれる——そう織子は信じていた。
『会いたい人』
春野萌
(童謡『赤とんぼ』)
電車の中で豪快に眠る村松さんと遭遇した茜は、彼女の顔が知人とそっくりであることに気付く。これから大好きな人に会いに行くという彼女に興味を抱き、感動の再会シーンに期待を寄せる茜だったが、ついて行ったその先で思いもよらない光景を目にする。
『あっても、なくても』
松ケ迫美貴
(『こぶとりじいさん』)
「整形を繰り返して一体なにが得られるっていうの?」「得るものなんて、何にもなくていいよ。あたしは自分の要らないものをなくしてるんだよ。そのために整形してるの」「モモちゃんがいらないものってなに?」「今は蒙古襞かな」整形を重ねる主人公・モモと、その彼氏・慧の話。
『うみの子』
鮎谷慧
(『赤い蝋燭と人魚(新潟県上越市大潟区雁子浜)』)
男の叔父は北の漁村で人魚を買い海難事故で死亡した。葬儀翌日、母が失踪した。老婆に人魚の因縁だと謗られた男は漁村を目指す。道中、人魚の奉納蝋燭が祭られた廃寺に泊まった男は漁村への定住を決めた。翌年、海への恐怖で船に乗れない男が浜で網を引くと、人魚と思しき幼子が網にかかった。
『城のある町の怪談』
森本航
(『豆腐売りの人柱伝説』(香川県丸亀市))
壮大な石垣と小さな天守を持つ丸亀城には、いくつもの怪談がある。近くの高校に通う由香里は、友人から、その怪談の一つ「豆腐売りの人柱」と同じような現象が最近、城内で起きているという噂を耳にする。しかし、そんなありきたりの怪談よりも由香里の頭を悩ませていることがあった……。