「俺はね、これをモモちゃんひとりの問題だと思ってないんだ。もちろん、モモちゃんが綺麗になりたいと思うことも、それに対して、その、できるかぎりの努力をしたいと思っていることも、なんにも悪いじゃないんだよ。ただ、たとえば自己肯定感だとか、愛情不足だとか、なにかしらキミの心に傷があって、それが整形という、ある種の自傷行為にあらわれているのであれば、恋人として一緒に向き合いたいと思ってるんだよ。表面的な話ではなくて、ね」
今、この瞬間を映画に撮るなら、慧くんは、カフェの入り口から順番に撮影していくだろう。お行儀よく。わかりやすく。そして、奥の窓側の席で話すあたしたちにだんだんと寄っていったところで、いったん視点の切り替えだ。あたしたちの間に置かれたアイスコーヒーのグラスをズームして、わざわざグラスについた沢山の水滴と、それが滴る様子を映す。そうやって話し合いが長時間におよんでいることを匂わせるのだ。慧くんは、真面目なシーンでは遊ばない人だから、さっきの長いセリフは、全部慧くんの真剣な顔が画面に抜かれてるんだろう。もしかしたら、膝の上で握りしめている拳だとか、震える下唇とかもたまにアップにして、緊張感が伝わるようにするのかもしれない。
「きいてる? モモちゃん」
「うん、きいてるよ」
「だから、さ。どうして自分が整形したいと思うのか、もう一度、モモちゃんにも真剣に考えてみてほしい」
慧くんの言葉をかみしめるふりをして、あたしはストローを口に運ぶ。氷が溶けきって分離したアイスコーヒーの上澄みを吸うと、なぜかどろくさいふしぎな味がする。
あたしがもし監督なら、このカフェの冒頭はまず入り口付近の女の子が飲む毒々しいエメラルドグリーンのメロンソーダ。そして、あたしたちの斜め前に座っているピンク髪で個性的な服装のブスを映して、そのあとに真剣な顔を突き合わせてひそひそ声で話し合う地味なカップル(あたしたち)を画面におさめる。で、主人公は美人の店員さんだ。彼女に焦点があった瞬間、あたしたちは全部背景になって、彼女の日常の一部としてぼかされてしまうのだ。
「考えてる? モモちゃん」
あたしがてんで違うことを考えていることをわかっていながら、それでも慧くんは穏やかな声できいてくれる。慧くんはいつもやさしい。
「慧くんは、あたしが目頭切るの、そんなに反対?」
「違う、違う。そういうことじゃないんだよ。どうしてモモちゃんがそんなに容姿にコンプレックスを持っているのか、気になってるだけ。今だって十分かわいいのに、異常に気にしすぎだと思うんだ。もし整形という手段以外でコンプレックスを解決できるのなら、俺も一緒に考えたいなって」
「あのね、慧くん」
回りくどい話し方をするせいで、どうしても長くなる慧くんの話を遮るように、あたしは言った。
「これって、慧くんが考えているほど、そんなに難しい話じゃないと思うの」