駄菓子屋を思わせる佇まいの商店で買い物をする。自宅から徒歩数分のその商店は、小さな店舗ながらも品揃えが良いので重宝している。強いて難点をあげるとすれば、店主のオヤジの声がデカいところだろうか。
「よお、兄ちゃん! あいかわらず甘いもんが好きだねえ」
「ハハハ、脳味噌の栄養は糖分だけですからね」
いつも軽口でもって応対をしている。といっても、嘘をついているわけではない。絶賛在宅勤務中の俺にとって、甘いおやつの常備は必要不可欠だった。
今日はプリンを一ダース購入。そして、帰路に就いた。
自宅までの道の途中、公園の横を通ると、小学生と思われる少年三人組の賑やかに盛り上がる姿が見えた。何をしているのだろうと気になって、その手元を覗いてみると、どうやら、蟻の巣にジョウロで水を注いでいる。
子供って残酷なことをするよなあ、などと少しばかりノスタルジックな気持ちにもなったが、大人としては、ここは注意をしなければならない。
「君たち、命を粗末に扱うのは良くないよ」
声を掛けると、少年たちは逃げ出し、数十メートル離れた地点で振り返った。
「やーい、オッサンのバーカ、バーカ」
「オッサンって、まだギリギリ二十代だっつうの……」
小声で反論をしてみたが、別に怒っているわけではなかった。むしろ、いまでも典型的クソガキという存在は健在なのだと、感心さえした。
走り去る少年三人組の後ろ姿を見送りながら、俺は、鼻で笑った。
翌日のことだ。チャイムの音で目を覚ました。客が来たようだ。俺は慌てて起き上がり、玄関の扉を開けた。
そこには、全身を黒い服で包んだ、若い女性が立っていた。
「昨日助けていただいた、蟻です」
「なに言ってんの? 大丈夫?」
真剣な顔に対して真剣な顔で応じると、女性は触角らしきものを動かした。
「人の姿に化けているのです」
「んなわけ……」
「お気に召さないのであれば蟻の姿に戻りま……」
「ちょっ、いや、人の姿が良いな!」
彼女の顔が蟻に変化し始めたので即座に止めた。怖い。蟻に戻るのならサイズも蟻に戻ってくれよ。とにかく、この女性は本当に蟻のようだ。
蟻は人の姿に戻ると、首を傾げて微笑んだ。その顔は女優のように美しい。
「……で、蟻さんが俺になんの用なの?」