小説

『蟻の恩返し×増殖』五条紀夫(『鶴の恩返し』)

 少年たちが水を撒く。女性たちの悲鳴が響く。それでも子供は残酷だ、容赦なくジョウロを振り回し続ける。日中の路上で、何十人という同じ顔した黒い集団が、少年三人を中心にグルグルと走り回る。
 なにこの状況。ウケる。
 やがて彼女たちは、ちりぢりに解散し、姿を消した。蟻の恩返しから救われたようだ。少年三人組に駆け寄り、握手を求める。
「話すと長くなるけど、とりあえず君たちのお陰で助かったよ」
 少年たちは鼻の下を擦り、手を差し出してきた。
「じゃあ、プリンください」
 俺は、出した手を引っ込めて、一言述べた。
「お前らもかよ!」

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