小説

『カメはミタ』あきのななぐさ(『浦島太郎(京都府)』)

 昔から、興味のあることには首を突っ込みたくなる性分。その為に、ずいぶんとひどい目にあったこともある。でも、そのおかげで色々な事を見聞きすることができたのも事実だろう。

 そう、浦島太郎との出会いもまたその一部。だから、私は最後まで見届けなくてはならない。

 すでに、陸《おか》の時間の流れとは異なる竜宮城にいる浦島太郎。
 その彼がいない陸《おか》の様子を。

 もちろん、この事は乙姫様には言ってない。言えば、また叱られるのは目に見えている。でも、聡い乙姫様の事だから、 きっと私の行動は全てお見通しなのだろう。

 浦島太郎を送り届けた時に貸し与えられたこの首飾りは、陸《おか》の者から身を隠す効果があるのだから。

 そして、その効果を存分に利用して村中を見て回った結果、漁師として優秀な浦島太郎の失踪は、すでに村中に広まっていた。

 そして、今――。

 様々な憶測が飛び交う中で、村人たちはついにその事を話し合う場を設けることにしたようだった。

***

「皆の衆、浦島の太郎がいなくなった」

 浜辺に近い村の寄り合い場――風で吹き飛ばされそうなほどの古い小屋――に集まった漁師たち。ただでさえみすぼらしい恰好の男たちが、重い顔で囲炉裏を囲んでいた。その中で上座にいる一人が、今さらながらの事を尊大に宣言していた。

「村長、それは皆よう知っとる。皆も薄情な阿呆ではないのだ。だからこそ、こうして各家を代表して集まっておる」

 最初に宣言した村長の隣に座る年寄りが、ため息交じりにそう告げていた。だが、その言葉を聞いた村長は、大真面目な顔で年寄りに言葉を返していた。

「大爺よ、大事なことだから言ったのだ。話し合う場で、互いの認識が違っていたのでは話になるまい? 太郎の事を、まず受け止めて、話し合わねばならぬのだ。いや、正確に言えば、あの母親おもいの太郎が、母親を残して忽然と姿を消した。理由はわからんがな」

 尊大な態度を崩すことなく、村長は皆を見回して、再びその言葉を告げていた。

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