『泡になる』石井里奈(『人魚姫』)
それはぽろぽろと溢れてゆき、ひとつひとつ大切なものが着実に失われていくようだった。 まるで、抱えていた紙袋の底が破れて中身が雪崩れ落ちるように、止まらぬ勢いで地面に滑り落ちて行く。落ちても落ちても、止むことを知らない […]
『おっぱい谷』エルディ(落語『頭山』)
ツイート えぇ、題名をみればわかると思いますが、ちとお下劣な話です。エログロではないのですが、下ネタ厳禁の方の不興を買う可能性は否定しません。お子さんにはどうでしょうねえ、幼稚園くらいのお子さんなら意外と素直に楽しんでく […]
『童子と傘』花乃静月(『小人と靴屋』)
ツイート 「傘屋ってのは、儲かる商売なのかい?」 「まあ、なんとも……。近頃は、新しい店に皆さん行かれるようで。ですから旦那には、何卒うちをご贔屓に――」 恰幅のいい男は愛想よく笑い、羽織を揺らして去っていった。勘吉は […]
『銀河夜行バス』Mac(『銀河鉄道の夜』)
ツイート 彼女は絶望していた。 ふよふよと漂う星の海。そんな中にぽつんと残された彼女ひとり。どうしてこんなことになってしまったのか。 思い返してみれば、なんでこんな仕事を受けてしまったのだろう。抽選で宇宙旅行が体験 […]
『金太郎の恋』露風真(『今昔物語』)
ツイート 昔、この世を我が世と思った関白道長公の側近に源頼光という武士がいた。頼光は武門の名将「朝家の守護」と称されていたが、藤原摂関家の家司としての貴族的面も併せ持っていた。頼光には十七歳になる非常に美しい娘がいた。 […]
『シャーロットの日記』朝蔭あゆ(『浦島太郎』)
ツイート 私は、車の窓から延々続く田舎道の緑を眺めていた。爽やかに晴れ渡った空。夏の鮮やかな日差しが、そこかしこに惜しげもなく降り注いでいる。 「シャーロット、窓を閉めてちょうだい。虫が入るわ」 「はあい、ママ」 運 […]
『真っ赤な歯車』加納綾子(『歯車』芥川龍之介)
ツイート 僕はふらふらと田舎道を歩いていた。そういえば一時間ほど前、娘と息子を義母の田んぼに残してきた。子供たちは今頃、義母に二人でいるところを見つけられ、家に連れて帰られただろう。そして縁側で西瓜でも食わしてもらって […]
『トウダイモトクラシー』シトフキワイ(『鶴の恩返し』)
ツイート 東京は下町。一月。 大正時代に大正モダン建築として建てられ、元々は住宅だった。戦争や天災などの被害から運良くまぬがれ、その歴史的建築美がウリの下宿『白鶴荘』。 二代目の大家・田島次郎と、下宿の家事全般を担 […]
『光の果てに』あいこさん(『竹取物語』)
ツイート 「キュッ、キュッ、キュッ、キュキュ…」 ヤモリだ。ヤモリの鳴き声を聞くと、改めてここは実家なんだと感じる。 二階の部屋は静かに風が通り抜け、月明かりで薄暗い。ヤモリはどこにいるのだろうと、茜は声がした天井角 […]
『ミスター・ワンダフル』中村吉郎(『クリスマス・キャロル』チャールズ・ディケンズ)
ツイート 第一に、丸井さんは7年前に亡くなっている。これは確固たる事実であり、丸井さんの葬儀を施行したのは、共同経営者である海老名勝(えびなすぐる)である。 その海老名勝が、今、自分が経営する葬儀社「ありがとう式典」 […]
『オクリモノ』村越呂美(『賢者の贈りもの』O.ヘンリー)
ツイート 「東京・世田谷区に住む会社社長・西野美耶子さん(60)が、自宅で刺殺され、遺体で見つかった。警視庁S署は、東京・六本木のホステス小柳周子(22)を殺害の容疑者として逮捕。凶器とされるナイフから検出された指紋が、 […]
『人殺し』大前粟生(イソップ寓話集『人殺し』)
ひとりの男が走っている。町はクリスマスで、家族や恋人たちは笑い合い、独身だったり恋人がいない者は人びとを呪ったりまた自分はクリスマスとかそういう浮ついたことにはなんの関心もありません、ただの日にちじゃないですか、それが […]
『記憶の女』永妻優一(『人魚姫』)
ツイート あと三十分で今日が終わろうとしていた。 妻が外泊していることを除けば、特に代わり映えのしない一日だった。明日早くに出掛ける用事があって、僕は眠る支度を始めていた。歯を磨き、睡眠薬を飲み、暖房を消し、ベッドに […]
『おやゆび姫 -後編ー』泉谷幸子(『おやゆび姫』)
ツイート 「デンマークに帰ろう」 愛する王子様が死んでしまって泣き暮らした後、おやゆび姫はそう決心しました――― 王子様との南の国での生活は、それはそれは楽しいものでした。毎日たくさんの花に囲まれ、甘い蜜をいくらでも […]
『後日譚』遠藤大輔(『山月記』)
ツイート その喫茶店は新宿にあった。花園神社を越えて、ゴールデン街も越えた先にあった。 店内にはいつもクラシックが流れていて、初老のマスターがただ静かにコーヒーを淹れている。雑誌の純喫茶特集で何度か紹介されたこともあ […]
『晴れた夜の習慣』和織(『夢』リルケ ライネル・マリア)
ツイート 君が今日も眠れないことを知っているから、僕は今日も早めに食事をとり、少し休んでから風呂に入って、十分にストレッチをし、寝具の状態を確かめてから、ベッドへもぐり込んだ。 とてもリラックスした状態で待っていると […]
『次は、』氏氏(『百物語』)
ツイート 「おまえだぁ」 「きゃあ」 与作のこわいはなしに、号泣の子どもたち。与作はこわいはないしが大好きだった。人から聞いたものもあれば、自分でつくったものもある。こわいはなしを考えているとき、与作は楽しくて仕方 […]
『悪鬼』田向秋沙(『長谷雄草紙』)
ツイート まだ鬼が身近にいた頃の話である。 紀季雄は六位の官人であった。秋の夕暮、内裏より戻る途中、朱雀門を過ぎる辺りでひとりの男に声を掛けられた。薄紫の直衣に茶の指貫を纏った男を見て、季雄は驚きを隠せなかった。 「 […]
『千鶴残酷物語』hirokey(『鶴の恩返し』)
ツイート 一羽のうつくしい鶴が、冬の空を飛んでいます。 ほっそりとした足、処女雪のような羽毛、鋭くも愛嬌のあるくちばし。年齢は五歳、人間で言えば十代半ばの、うら若き乙女です。 ……ああ、本気の恋がしてみたい。 そ […]
『私だけのエナメル』柿沼雅美(『赤い靴』)
ツイート 机に頬杖をつきながら、この人は一体何が楽しいんだろうなぁと、由実は思った。キャリアカウンセラーに紹介されて教壇に上がったOGは、2年目となった営業事務の仕事内容について、声に力を込めて話している。それが緊張に […]
『吉住町』ノリ・ケンゾウ(『猫町』)
ツイート 夜も余もつれづれ、更(老)けていき、三歳児の歩行と前進が善く映えるような朝に。目醒める私、詩人であった。詩人(ワタシ)は常々として疾患もちで、風邪薬(ドラッグ)片手によくトリップ(幻覚)に出た。何処へでも旅に […]
『開かずの座敷』化野生姜(『見るなの座敷』)
ツイート 泰三爺さんが床につくと、家族は最後を看取るために彼のまわりに集まった。 家長である長男はもう耳が聞こえない泰三にゆっくりと何かを語りかけていた。 医者である次男はその弱々しい脈を静かに取っていた。 そうして、一 […]
『ネズミの相撲』長月竜胆(『ネズミの相撲』)
ツイート 町外れの山麓に、お爺さんとお婆さんが二人で暮らしていた。二人の生活は非常に質素なもので、小さな畑で野菜を育てながら、柴刈りや内職で生計を立てていた。子供はおらず、ずっと二人暮らしの生活だが、二人の家には小さな […]
『桃太郎Take2』散田三郎(『桃太郎』)
ツイート 村の外れの陋屋に、老女と少年が住んでいた。老女の夫である老人は、遥か昔に山に芝刈りに行くと言い残したまま逐電した。彼の行方は現在も不明である。 少年はかつて捨て子だったが、老女によって育てられた。老女は憐憫に […]
『第十一夜』たぼく(『夢十夜』夏目漱石)
ツイート こんな夢を見た。奇妙なおよそ十の夢を見た後で吾輩は目を覚まし、あれらは全て夢だったと悟ったがゆえに現実のものではないのであるから、なんら心配はないと自身に言い聞かせ平静を取り戻したのち、冷や汗で湿った寝巻を着 […]
『千年に咲く花』丹一(落語『竹の水仙』『ねずみ』)
ツイート 時は幕末、黒船来航の頃。 若い男が藤沢街道をノラクラ歩いていると、 「そこのお兄さん、ウチに泊まっておくれよ」 と若い客引きの娘が声をかけた。 「オレかい?」と男が訊くと、 「そ、そうだよ、泊まっておくれ […]
『終戦花見』清水その字(古典落語『長屋の花見』)
ツイート 長野県・野辺山高原。標高千三百メートルを超えるこの土地はかつて馬の産地として知られ、やがてはハクサイなどの野菜が広く栽培されるようになった。戦前にはすでに鉄道も通っていたが、それでも下界とは隔絶された土地とい […]
『舞姫は斯く踊りき』木江恭(『舞姫』森鴎外、『サロメ』オスカー・ワイルド)
ツイート その子を一目見た瞬間、太田の背筋に震えが走った。 日本一有名な巨大スクランブル交差点のすぐ傍に、その子は退屈そうに立っている。白いレースの付いたグレーのパーカー、細い腰を高い位置できゅっと締め上げるチェック […]
『綱』大前粟生(『蜘蛛の糸』芥川龍之介)
ツイート 007 超高層ビルのすべての床と天井をぶちぬいて吹き抜けにしたみたいに虚ろで、高い。いや、もっと高いように見える、この会場は。照明が設置されているのは中ごろの壁までのようで、綱を上に登るにつれて、だんだん闇が […]
『黒いパンプス』大前粟生(『シンデレラ』『ラプンツェル』『金太郎』)
ツイート ラプンツェル科の子たちはとても髪が長いし、長い髪を支える彼女たちの首の筋力はすごい。彼女たちの髪の上に乗った私たちをひきずりながら歩けるほどの首の筋力だから、私たちは小銭を払って彼女たちをタクシーのように使う […]