「空いてる方の手で、そこの木につかまって!」
すぐに、少年の指示が飛んでくる。同時に、彼はミユキの腕を掴んだ。
言われた通りにしないと、幼い少年まで道連れにしてしまう。ミユキは、彼の指示に従うしかなかった。
やけにごつごつした幹。他の紅葉樹と違って、つやつやした緑の葉が目立つ木。
「いたっ」
小さな声を洩らしたのは、ミユキではなく、少年の方だった。
少年が掴むように言った木が蓄えている緑の葉には、ノコギリのような棘が幾つもついていた。その棘が、ミユキを崖上に引き上げようとした少年を傷付けたらしい。
その声に弾かれたように、ミユキは、木の幹を掴む自分の手と腕に力を込めた。
「大丈夫? ごめんなさい」
「こんなの、すぐ消える」
少年の腕や頬に幾つもの引っ掻き傷を作ったのは、ヒイラギの木と葉だった。節分の夜に邪気を払うために飾る木である。
無事に崖上に引き上げられ、その場にへたり込んでしまったミユキの横に、少年が膝を抱えて座る。それから彼は、遠慮がちにミユキの顔を覗き込んできた。