小説

『優しい鬼たち』川瀬えいみ(『節分の鬼』(岩手県))

「あの……あのね。お母さんに教えてもらった昔話……家族がみんな死んじゃって、一人ぼっちになっちゃった寂しいおじいさんの話なんだけどさ。そのおじいさん、自分は福の神に見捨てられたと思い込んで、節分に、『鬼は内、福は外』って叫びながら豆まきをしたんだって。そしたら、他の家から追い出された鬼たちが、大喜びでおじいさんちにやってきたんだ。薪やご馳走を山ほど抱えて。それで、わいわい賑やかな大宴会になってさ、鬼たちは来年も来るって約束して、上機嫌で帰っていった。毎日寂しくて、一日も早く死にたいって思ってたおじいさんは、来年、鬼たちを迎えるために、頑張って長生きしようって思うんだよ」
「え……」
 それは、タスクが子どもの頃、母から聞いたものと同じ昔話だった。この地方に伝わる昔話なのだから、この少年が知っているのはおかしなことではない。
「そういう話だったんだ……」
 ミユキが思い出せずにいた物語の結末は、優しいハッピーエンドだった。

「一人で寂しい時には、自分以外の誰かのために生きればいいって、僕のお母さんは言ってたよ。お母さんはそうしたって」
「そう……」
「うん。でね。僕のいる施設に、すごく可愛い女の子がいてさ。僕は、その子のために生きることにしたんだ」

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