小説

『揺れ、そして凪ぐ』リンゴの木(『竹取物語』)

おばちゃんはそんな橋本を睨みつける。機械が動き、作業員も機械に合わせて動き、鉢は流れて出荷され、材料は次々運び込まれる。工場は私を巻き込みぐるぐる回って鉢を生み出すのだけれど、こんな鉢が無くったってどうってことはない。鉢の生産機械じみた私の存在価値も希薄。無価値な私、無価値な橋本、無価値な工場の作業員は全て等価で代替可能で無価値。けれど、頑張れば細竹さんに褒められる私。細竹さんに褒められると私はちょっと価値あるものになれた気がするのだ。

「はい、皆手を止めて。大事なお知らせがありますからね」
細竹さんがやって来てから3か月経った。細竹さんは私のサポートではなくなったけれど、仕事に精を出すようになった私は、いつの間にか不良品の摘発率で優秀賞を取るまでになっていた。おばちゃんのダミ声にふと我に返り、前を見る。
「はい、石山さん前に出てきて」
私は急に名前を呼ばれたことに驚きつつも、のそのそ歩み出る。皆の前に立つと細竹さんが微笑んでこちらを見上げているのが目に入った。
「はい、石山さんはここ最近成績優秀で表彰もされましたので、木工製品工場に栄転することになりました。皆さん拍手」
そんな話聞いてない、嫌だ。
「石山さんおめでとう!給料も少しばかりは良くなるはずよ」
おばちゃんがそっと囁く。嫌だ、そんなの嫌だ。

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