「石山にいじめられたりしなかった?」
橋本が余計なことを訊く。細竹さんは首を振り、
「石山さん、不良品を見分けるのがすごく速くてびっくりしちゃいました。ほんとすごいんです」
と言うと、こちらを微笑みながら見つめてくる。
「慣れてるだけだよ」
そう返しつつも、じんわりと心が温かくなるのを感じる。褒められるなんていつぶりだろう。
「ささ、早く帰ろう。外どんどん寒くなるし」
橋本が急き立て工場を出る。3人でアパートメントまで歩いた。
次の日も細竹さんは私のサポートをすることになった。普段なら見逃すような傷も何故かはじく気になった。
「ふふ、さすがですね、石山さん」
細竹さんに褒められると嬉しい。子供のようだと自分でも思うけれど、くだらない仕事でも俄然やる気が出た。
「石山、頑張るねー」
橋本が側を通り過ぎるついでに冷やかしてくる。
「はい、橋本さんも石山さんを見習って真面目にしなさい」