「よろしく。えーと、このラインは鉢を作ってるからね」
細竹さんは熱心にラインを眺めている。
「ほら、こういう欠けた鉢が流れてきたら横にはじいて」
鉢を手に取った瞬間、ガタンと機械が呻き、順調に通り過ぎていく鉢たちの運動が止まった。細竹さんは驚いてこちらを見上げる。
「あー、この機械よく止まるんだ。こういう時は大体このボタンを押せばいいはず」
私が以前の担当者に聞き、その担当者も前の担当者に聞いたことを細竹さんに伝える。こうして、おんぼろの機械とおんぼろのマニュアルは改善されることなく受け継がれていくんだな。
「分かりました。ありがとうございます」
きっと細竹さんもおんぼろのマニュアルを次の誰かに伝えていくんだろう。
「いえいえ」
二人で並んで流れる鉢を眺める。これはお金がもらえる程つまらない時間の消費方法なのだ。私ならともかく細竹さんのように美人な人も、こんなくだらない事に時間を使うのはもったいない気がした。
終業のブザーが鳴り、機械の動きがぴたりと止まる。橋本がひょろりと近づいてきて、一緒に帰ろうと誘う。
「あ、新入りの子だ。よろしく、橋本です」
「細竹です、こちらこそよろしくお願いします」
細竹さんと橋本は並んでいると別の生き物のように見えた。私と細竹さんが並んでいる時もたぶんそう見えたのだろう。