小説

『揺れ、そして凪ぐ』リンゴの木(『竹取物語』)

 埃っぽい工場の中で作業服を着てずらりと並ぶ50人の労働者は、何だかみんな似ていてマシーンのようだ。私とこの人たちの違いは何なのだろう。
「はい、今日新しく仲間になった人を紹介しますよ」
工場長のおばちゃんが前に出て手を叩いて大声を出す。作業員が揃って顔を上げる。おばちゃんの横には若い女の人が立っている。
「はい、細竹さんです。ほら、軽く自己紹介して」
すると女の人は軽く頭を下げ、細い声を必死に張り上げた。
「細竹と申します。アパートメント225にやって来ました。よろしくお願いします。」
言い終えると、もう一度ぺこりとお辞儀する。作業員たちは、ぱらぱらとまばらな拍手をして、再びラインに目を落とす。
「はい、じゃあ細竹さんは石山さんについて色々教えてもらって」
おばちゃんは私を指しながら言った。おいおい、面倒くさいな。細竹さんは駆け足でこちらに近づいてくる。
「石山さん。よろしくお願いします」
近くで見ると、細竹さんは少し背が低いことが分かった。色白な肌にうっすら色づいた頬と、形の良いアーモンドアイの漆のような黒目が愛らしい。引き換えに自分のニキビのある肌とこげ茶の瞳が思われた。

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