小説

『神さまなんて信じない』さくらぎこう(『わらしべ長者』)

 宝くじのことは忘れていた。
 1ヶ月ほどした時、部屋の壁にピン止めしてある宝くじに目がいき、もう発表は過ぎている頃だと気付いた。どうせ当たることはないと思っていた。
 確認したら、1等の番号と合っていた。だが組番号が違っていた。それでも10万円の当たりだった。
 直ぐに溜まっている家賃2ケ月分を払った。 
 残ったのは1万6千円だ。今月のバイト料の残りと合わせると、次の給料日まで楽勝だった。
 あの時からだ。あの神社でホームレスの男と出会ってからだ。八方塞がりだった境遇から少しずつ良くなっていったのは。

 僕はあのホームレスに逢いに神社に行った。
 神殿の扉をそっと開けてみる。だが男はいなかった。中も寂れた神社の神殿らしく、埃だらけで手入れされた様子もない。
 しばらく神社の森林の中を捜したが、誰にも会うことはできなかった。
「もうここにはいないのかも知れない」
 ポケットから5円玉を取り出し賽銭箱に投げ入れた。手をパンパンと合わせると、静かな神社に柏手の音が響いた。僕は宝くじのお礼を言った。
「呼んだ?」
 突然、またあの男が神殿の扉を開けて出て来た。
「え、いつ来た、どこにいた?」
「ああ、そうか宝くじのお礼?」
「まあ、そうです。10万円当たったんで」
「で、味を占めてまた来た?」
 図星だった。
「また買ったら当たるんですか?」
「ダメだね」

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