小説

『神さまなんて信じない』さくらぎこう(『わらしべ長者』)

 今度は素っ気ない返事が返ってきた。
 なんだ、やっぱりこの男はただのホームレスで、当たったのは偶然だったのだ。
「あのさ、10万円儲けたんだから、賽銭が5円というのはちょっと少ないんじゃない?」
 そう言われれば、そうだと思った。ポケットを探ると5千円札が1枚入っていた。5千円の賽銭はイタイ。
「4千円のおつり貰える?」
 男は渋い顔をした。
「お賽銭におつりは、ナイわー」
 そう答えたかと思ったら、さっと僕の手から五千円札を取り上げた。
「賽銭、5千円もらったからさ、また叶えてやるよ」
 またまただよ。だが前回のこともある。5円が10万円になったのだ。もしかしたらもしかするかもしれない。
「彼女とよりを戻したい」
 付き合っていたのは、学生時代だ。僕が社会人落ちこぼれになってからは、連絡しても返事が来ない。でももし叶えられたら本気で仕事探しをするし、パチンコには手を出さないし、休日は返上して働く。
「彼女かー、それって難しいんだわ。だって人の心を動かすんだからさ」
「え、でも叶えてくれるよね。5千円お賽銭にしたんだから」
「んんんんん、やっぱ返すわ、これ」
 男は、握りしめていた5千円札を返してよこした。
「やだよ、一度渡したんだから叶えてよ、神様だろ!」
 男は、神様と言う言葉に反応した。
「じゃあさ、100パーはないよ」
「ダメだよ、神様なんだからさ」
「んんん・・・、分かった神様に二言はない」
 男はその言葉を残して、姿を消した。

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