小説

『神さまなんて信じない』さくらぎこう(『わらしべ長者』)

 僕は神様を信じない。オヤジは神仏を一切信じなかった。だから僕の家に神棚はなく、祖父母が亡くなっているため小さな仏壇はあったが、そこに供物が供えられていることはなく、線香の煙が立ち上ることもなかった。
 祖父が亡くなった時に母が父を説得し、仏壇だけは用意したと聞いた。
 父が言うには神や仏などというものは存在しない。いると信じている人の心の中にだけ神仏はいる。信じることでその人が救われるからだ。というのが父の持論だった。
 5~6歳の子どもの頃だったと思う。道路に飛び出そうとして父親にひどく叱られたことがあった。
「死んだら、天国へ行けるからいいもん」
 保育園では死んで天国へ行った愛犬の話や、死んで星になったというお話を日常的に聞いてきた。子ども心に疑うことなくそう信じていたのだ。
叱られた剣幕に反抗して言い返した僕に父は更に激怒した。
「死んだら人は焼かれて灰になるだけだ。天国なんてないし、地獄もない!」
 死んだら焼かれて灰になる、というその言葉が当時の僕を強く打ちのめした。幼心にも鮮明に記憶に残り、今でも一字一句覚えている。
その後、成長するにつれ死後の世界や生まれ変わりを信じる気持ちは変化していき、小学生の高学年になる頃には、人は死んだら星になったり、天国へ行くというのは嘘っぱちだと、確信をもって思うようになっていた。
そんな僕が神頼みをすることになるとは思ってもないことだった。

父の無神論度は徹底していたため、周辺からも異端児扱いされていた。思春期になる頃には、他人からの眼を肌で感じるようになった僕は、家を出ることばかりを考えるようになった。

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