小説

『なんとなく楽しい日』真銅ひろし(『浦島太郎』)

 テンパりながら正直に話す。体が熱くなるのを感じる。
「そうなんですか。何年前にご卒業されたんですか?」
 男性教員は何か探るような目で質問してくる。この質問は何かの罠だろうか?いや、罠というか完全に怪しまれている。
「そうですね、だいぶ、そう、だいぶ昔ですからね・・・。」
 40から12を引けばいいのだけど焦りすぎてなかなか答えがでない。
「ああ、えっと・・・27,8年前くらいですかね。」
「そうなんですね。それは懐かしいですよねぇ、何か変わりましたか?」
 笑顔で切り込んでくる。全然信用されていない。
「とりあえず、昔は金網だったのに、今はフェンスになっちゃって中が見えないようになってるんですね。まぁ防犯上仕方ないのかもしれませんけど。」
「・・・。」
「あとは~、そうですね・・・。」
 周りを見回してもほとんど変わっていない。だけど他にも何か言わないといけなそうな雰囲気が漂いまくっている。何かないかと必死にあたりを注視する。
「あ!自転車置き場が出来てますね!昔は自転車通学ダメだったから!今は出来るようになったんですね!いやぁ、すごいですね!」
 何が凄いのか自分でもはっきりしなかったが、そんな事を気にしてる場合ではなかった。教員は難しい顔でジッとこっちを見ている。
「・・・。」
 こちらは微笑むくらいしかできない。
「あの、先ほどのお話だとご年齢は40か41でしょうか?」
「あ、はい。40です。」
「あの、失礼ですがお名前教えてもらってもいいですか?」
「え?」
 急な質問に体が固まる。そして本名を答えるか偽名を言うか高速で考える。けれど何もやましい事などないのだから偽名なんて使う必要はない。
「佐原、ですけど。」
「えっと、間違ってたら申し訳ないんですが、下は浩司じゃないですか?」
「・・・。」
 一瞬目を見開く。見覚えのない人間に下の名前を言われた。
「え、ああ、まぁ・・・はい。」
「そうだ。こうちゃんじゃん!」
「・・・。」

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