小説

『カチカチ寺』大中小左衛門(『カチカチ山』)

 境内へ続く門をくぐった。中には大勢の避難民が溢れている。みんな戦で家を失った人たちだ。清太は今日からここで暮らすことになる。
「少ないけれど、食事は必ず出すようにする。お前がいいと思うまで、ここにいなさい」
 そう言って、清太をここへ連れてきた法衣のタヌキが微笑んだ。
 京の都を荒らしまわる足軽に両親を殺され、家も燃やされた。清太自身も捕まって人買いに売られそうになっていたところを助けてくれたのがこのタヌキだった。
「帰る家はあるかね」
「燃やされました。親も足軽たちに……行く当てはありません」
 そう言うと、タヌキは心の底から同情する顔をした。
「かわいそうに、まだ小さい子が……。それでは、私の寺へ来なさい。同じような境遇の者を大勢匿っている。遠慮はいらんぞ」
 そうして清太はこの寺へやって来た。
「和尚様、お帰りなさいませ」
 僧が一人近づいてきてタヌキに挨拶する。清太はこのタヌキが和尚様などと呼ばれるような高僧であったことに驚いた。僧が清太に目を向ける。
「また、人を拾ってきたのですか」
「うむ、足軽に売り飛ばされそうになっていたので、見過ごせなくてな……また寺に負担をかけてしまうが、よろしく頼む」
 タヌキが頼むと、僧は仕方がないなと言いたそうな笑みを浮かべて頷いた。清太は寺で暮らすことになった。
 寺の僧は皆、清太たち避難民に優しかった。タヌキが絶対に避難民を邪険にしないよう言い含めているのだ。
量は少ないが食事はきちんと出てくるし、屋根のある場所で寝泊まり出来ることは何より有難かった。
 タヌキはその後も幾度となく町へ出ては避難民を拾ってくる。
 細川家と山名家が京で戦を起こしてから、もう二年が過ぎた。町には両家が雇った足軽が溢れ、庶民から何もかもを奪っていく。
 そんな中でいつ足軽どもに襲われるか分からず、寺の運営にも甚大な影響を与えるだろうに、彼は戦が起きてからずっと見廻りを続けているのだという。

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