小説

『カチカチ寺』大中小左衛門(『カチカチ山』)

「あなた様はかつて、妻を殺された翁の求めに応じ、私を懲らしめました。そのような気骨を持たれていた方が、どうして寺に助けを求めるしかない民の食糧を奪おうとなされるのです。どうかどうか、無体なことをなさらないで下さいませ」
「……そなた、誠に悔い改めたと申すのか。人から作物を奪い、あまつさえその家の住民を殺すような者が、本当にそのように変われるというのか」
「変われます」
 タヌキに代わって答えたのは、清太だった。タヌキもウサギも、驚いたように清太の顔を見る。
「私は、いえ私たちは、このお方に救われました。お疑いであれば、私たちが証人です。さあ、ご覧下さいませ」
「清太……」
 タヌキが声を漏らす。
「……よう分かった。和尚よ、そなたが救った者らに免じて、この場は去ろう。だが覚えておけ。戦はまだまだ終わらぬぞ。そなたが変わった方向とは真逆に変わる者もいる。わしのようにな。いつまで今のような信念を貫くことが出来るか、見せてもらおう。者ども、行くぞ」
 ウサギが足軽たちを従えて去っていく。その姿を見送るタヌキの手を清太は握った。
 タヌキは清太の顔を見て、きっと大丈夫、と語りかけるように微笑んだ。



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