小説

『時には、必要、かもしれない』真銅ひろし(『鉢かづき姫(寝屋川市)』)

 嬉しいけれど、応えられない。
「ごめんなさい。」
 一つ上の先輩はこの言葉を聞くと寂しそうに「そっか」と答えてどこかに行ってしまった。
「はぁ。」
 とため息をつく。優しそうな人だった。でも、せっかくの告白も応えることは出来ない。
 ピロン。
 と着信音が鳴りスマホがメールを受信する。
「・・・。」
 案の定兄からのメールだ。
『校門前にいるぞ~。』
「はいはい、分かってますよ。」
 うんざりしながらも校門へと歩きだす。
 毎日毎日飽きもせずによく来るものだ・・・。

 兄の幸一郎は笑顔でこちらに手を振っている。
「夢華!」
 ブンブンと大きく手を振り、大声で呼ぶその姿は恥ずかしいしかない。
「ちょっとやめてよ!お兄ちゃん!何度も言ってるじゃん。」
「なんで?可愛い妹の心配をする兄のどこが嫌なんだ?」
「それが嫌なの。」
 そばに止めてある車には乗らずにスタスタと歩き出す。
「おい、乗っていきなさい!」
「・・・。」
 無視して歩く。

 お節介焼きで心配症な兄。
 これだけならまだなんとかなったのかもしれない。問題はもうひとつある。
「おかえり!」
 父だ。
 玄関を開けると満面の笑みで出迎えてくる。
「いやー今日も抜群に可愛いなー!」
「はいはい。朝も見たでしょ。」
「幸一郎は?」
「知らない。置いてきた。」

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