小説

『星になんてならなくていいのに』古村勇太(『よだかの星』『雨ニモマケズ』)

「母親のせいでこんな顔で生まれてきたとか、虐待してるんだろうって噂になったり。……だからあなたが生まれた時、この子はとにかく可愛く女の子らしく育てよう、って思ったの。きっと私も、親になるには早かったのね。今更、言い訳にしかならないけど」
 そう話す母の顔は、いままで見たことがないくらいの柔らかい表情だった。
「母さん。私、また伸ばすから。そしたらまた母さんが切ってね」
 鏡の中で私と母は、目を合わせて笑いあった。

 次の日の朝、私は学校に行くために家を出た。青い空に真っ白な雲の浮かぶ、気持ちのいい朝だった。
 私の髪はボブヘアになっていた。これまでと比べて頭が軽く、首元の涼しさがくすぐったい。
 私の髪を見て、クラスメイト達は何て言うだろう。失恋したのとか、またくだらないことをピーチクパーチク言いそうだ。どんな反応か楽しみである。
 朝の優しい日差しのなかを、軽い足取りで私は歩く。それに合わせて、短く切り揃えられた髪が跳ねるように揺れ動く。
 それはまるで、小鳥の羽ばたきのようだった。

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