小説

『星になんてならなくていいのに』古村勇太(『よだかの星』『雨ニモマケズ』)

「俺たちを煽っていた張本人のくせに、妹が来たらビビりやがってよ。都合のいいことを言って自分だけ罪悪感から逃れようとしたんだよ。最低なやつだよな」
 先輩は「ほら、妹ちゃんにちゃんと謝られよ」と言われ、無理やり体を起こされて私の目の前まで連れてこられた。
「……何故ですか。先輩」
 私は震える声で問いかける。先輩の顔は、恐怖と、そして自嘲の笑みで醜く歪み、この世のものとは思えなかった。
「だって、本当に死ぬとは思わなかったから」
 先輩の言葉を聞いた私は手を振り上げたが、その手を下ろすことができなかった。こんなくだらない人のために兄が死んだかと思うと、悔しくて情けなくて、どうしようもなくやるせなくなってしまった。
「ていうかさ、あんたも余計なことすんなよ」
 そう言われながら、私は後ろから髪を掴まれ引っ張られた。
「たかが本くらいほっとけばいいのにさ、あんたが騒ぎ立てるからこんな大事になったんじゃん」
「ブラコンてやつ? 顔は似てないけど、やっぱり妹だからキモイね」
「つうか髪も長すぎだし。オバケみたいになってるじゃん」
 周囲からゲラゲラと笑い声が聞こえる。一体何がおかしいのか、何に笑っているのか、私には理解ができなかった。多分、この人たち自身もわかっていないのだろう。ただ自分は多数側に身を置いて、それ以外の誰かを見て安心したいだけなんだ。自分というものを持っていれば、きっとこんな酷いことはできないはずだ。
「ほら、これが探していた本だろ?」
 一人の男子が、そう言って本を取り出す。それは確かに、探していた兄の本だった。
「そもそもさ、こんなのに俺たちがビビる必要ないよな」
「それな」
「じゃあ、元凶は処分しちゃおうぜ」
「さんせーい」
 そういって、彼らはライターを取り出した。
暗闇に小さな灯がともり、一瞬、彼らの下卑た顔が浮かび上がる。火が本に移ると、彼らはそれを投げ捨てた。
 火はどんどんと本を侵食し、その勢いを強めていく。真っ赤に燃える炎を見た時、私はやにわに叫んでいた。
 周囲の人たちは驚いたのか、掴まれていた髪の毛はその手を離れた。私は本に駆け寄り、炎を消そうと必死で本を叩いた。直に火を触っているのに熱さも忘れ、かがんだ拍子に髪の先が垂れて火が燃え移ろうとも、私は構わず半狂乱のように火を消そうとした。
「おい、やばくね」
「だれか水!」
 そんな声が聞こえたかと思ったら、周りから水が降ってきた。何人かが持っていたペットボトルの飲み物を掛けてきて、それで本も私の髪も、火はすっかり消えていた。半分近く灰になった兄の本と、髪先の一部が焦げて短くなった私はずぶ濡れだった。
「お、おい」

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