小説

『再び』川合玉川(『浦島太郎』)

「SNS……」
「やってないか。そういうの嫌いそうだもんなあ」
「インターネットが今日のような使われ方をするとは、開発者も思ってなかったでしょうね。最先端の技術を使ってどうでもいい情報のやりとりをするなんて。ドローンでお茶を出されてる気分」
 よくわからない。誰かにニュース原稿でも読まされているような口調。
「もしよかったら連絡先を交換できればと思ったんだけど」
「宮浦君はSNSに何をアップしてるの?」
「何ってほどのもんでも。どっか出掛けたとか、食べた物とか……ゴミみたいなもんだよ」
「そうね。みんなで誰のゴミが一番きれいか競っている」
「辛辣なのな」
「『ゴミ』って言ったのは宮浦君だけど」
「……喩(たとえ)だよ。実際、ゴミみたいなもんだけどさ。事実でもハッキリ言われると、なんかつらいもんがあるなあ」
「でも、ゴミでも大量に集めたら資源、つまり、お金に変えられると気づいた人たちがSNSという仕組みを考え出した――ゴミから金(きん)を作り出すなんてまるで錬金術ね」
「皮肉っぽくない?」
「事実だけど」
「SNSが嫌いならメールはどう? アドレスの交――」
「嫌いだとは言ってないし、SNSはやってる」
「やってんの?」
 思わず目を丸くする。
「そう」
「意外だね……」
「美味しい物とか、猫とか、普通の物が好きだもの。ゴミの中にも私の好きなゴミはある」
「あ、そ。じゃあ、あの……」
 IDを交換したほうがいいのかな。はたして自分は早乙女をどう思っているのか。今まで会ったことがないタイプで、変人の部分に惹かれる。変人に惹かれるということは宮浦は凡人で、凡人が変人と話が合うのかとも思う。早乙女の性格は理解しがたいが、端正な顔立ちはよく見れば美人に含まれる部類だし、仲良くなりたい気はした。それにしても変人すぎやしないかというのが心配ではあるけど。
 早乙女は宮浦の瞳を覗き込んだ。急に距離が狭まり、顔が火照るのを感じる。
 早乙女が口を開いた。
「ID交換したいなら、はっきり言えば?」
「え? あ……そう? じゃあ、IDを交換し――」「イヤです」
 早乙女は表情を変えない。
 まさかこの流れで断るやつがいるとは。なんて女だ。自分から言い出したんだから普通は交換するだろうが、とちょっと頭にくる。天然のサイコパスなんだろうか。早乙女という人間がよくわからない。
「ええと……家族以外は登録しないとかそういうポリシー?」
 早乙女はスマホの画面を宮浦に向けた。
「なにこれ?」

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