小説

『再び』川合玉川(『浦島太郎』)

 人影は、宮浦たちに気づいたのかビクッと体を震わせて止まった。
「な、なに?」
 恐る恐る近づいてくる人影。その顔には見覚えがあった。練習は誰にも負けないぐらい一生懸命やるけど、今一つ結果がついてこない。いつも周りにバカにされていたジャガイモ先輩。あの先輩――。
「玉田先輩! 助けてください!」
「え? おまえ……宮浦? と……その友達?」



 宮浦は玉手箱について考えていた。乙姫は竜宮城のお土産に、浦島に玉手箱を渡す。玉手箱を開けた浦島は、白い煙を浴びて老人になる。なぜ、乙姫はあんな物をお土産に上げたのだろうと思っていた。乙姫だって浦島を愛していたはずなのに。
 実は玉手箱の中身は老人になる薬ではなくて、望んだことが叶う箱だったのではないか。乙姫は、浦島が地上に戻れば、時間が過ぎ去ったことに絶望するとわかっていた。だから「玉手箱を開けないように」と念を押したのだ。
 乙姫は浦島のことを思っていたし、玉手箱はやはり大事な宝物だったのだ。


 ポケットのスマホが振動した。早乙女からのメッセージが届いていた。
「玉手箱、今度はちゃんと開けられた?」

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11