小説

『白雪姫と多勢に無勢のこびとさん』島田悠子(『白雪姫』)

「それでは、今日の学級会は以上で」
 クラス一存在感がない学級委員長の瀬戸翼が切り出すと、それをかき消すように大島あずが叫んだ。
「意義あり! 意義あり異議あり異議あり! 学級会は続けるべきです!」
 私は飽き飽きしつつも、ちょっと悪趣味な興味もあって成り行きを見守ることにした。チャイムの音が響く。4年1組の学級会は毎度のように紛糾していた。PTA会長の娘の大島あずと、芸能事務所所属の芳沢ルナが学芸会の主役を取り合って譲らないのだ。出し物は「白雪姫」で決定している。この何回かで率直かつ感情的に意見交換したあずとルナはついに、ある結論に行きついた。
 つかつかと黒板の前まで来て、あずが書記の私からチョークを奪う。そして、黒板にカッカと書き込んでいった。
「これで決まり! 誰も文句ないよね!」
 あずが黒板を叩く。ほこりが舞って、最終キャストが明らかになった。木、花、森の動物などの端役は大きなバツで消され、「白雪姫」の下には「女子全員!」と殴り書きにしてあった。
「女子、全員?」
 ハモったのは男子二人。佐々木楓と、その後ろの席の仲村龍之介だった。
 私が通う星ヶ丘小学校が共学になったのは数年前。そのため、このクラスの男女比はいびつだ。女子23人に対し男子は3人。もう一人は学級委員長の翼。もう一人、男がいる。教室の後ろで苦笑いしている担任の雨宮だ。半ギレの小学生女子ほど厄介な生き物はいない。触らぬ神に祟りなし。無力な男子や雨宮でなくとも、クラスの誰もがあずとルナの仲裁をしようなんてしなかった。そして議論は流れに流され、この結果というわけ。
「あ、でもでも、魔女はルナがいいと思いまーす! ちょーハマり顔だし!」
 あずが言うとルナがすかさず言い返す。
「魔女ならあずの方が性格的にハマってると思いまーす!」
「あたしは白雪姫だから!」
「あたしだって白雪姫だから!」
 にらみ合うあずとルナ。雨宮は腕時計を見、楓はおろおろ、龍之介はあくびをかみ殺していた、そんな矢先。
「だったら、魔女は僕がやります!」
 あまりに意外な人物が声をあげた。クラスのみなが翼に注目した。
「で、でも、瀬戸くんは」
 雨宮が言いかける。続きは翼が補った。
「こびとと魔女は一人二役でも可能です。僕が女装して魔女をやります」
 急に存在感をあらわした学級委員長は、あずをどけて教卓の中央に立った。
「みんな、僕はこの学芸会を成功させたい! みんなの気持ちを一つにして、拍手喝采で終われるような、最高の舞台を作りましょう!」
 みなが絶句していた。翼って、そういうキャラじゃないじゃん!

 
 私たちは約二名の無益な口論とその観戦に時間を費やしすぎた。もう学芸会まで時間がない。舞台道具を作る作業は急ピッチで行われた。

1 2 3 4 5 6 7 8