小説

『白雪姫と多勢に無勢のこびとさん』島田悠子(『白雪姫』)

 翼は段ボール製のはりぼてに色を塗っている。左右にこびとが三人ずつ並ぶイラスト。その真ん中を翼が背負うと、あたかも七人のこびとが横一列に並ぶ。バカげたアイデアだが、本人は心なしか楽しそうだ。
 あずと取り巻きグループがいつものようにおしゃべりしていた。
「ねぇ、こびとが一人で白雪姫が23人って、こびとコキ使われすぎじゃない?」
「王子は23人とキスすんの?」
「クラスの女子全員と?」
「きゃーっ、いやぁーっ!」
 盛り上がる女子トークに王子役の楓がたまらず割って入る。
「オレだってやだよ!」
 耳まで真っ赤にして。それを聞いていたルナが言う。
「男子とキスするくらいなら女子同士でキスした方が全然いいし!」
「どういうストーリーだよ、それ?」
 龍之介がつっこむ。そうしている間にも翼は淡々、黙々、着々と作業を進め、おかしなはりぼては完成に近づいていく。
「ストーリーだって決めないとだよね!」
 あずが言う。翼ははりぼてを背負ってみた。が、はりぼては重みで折れてしまった。私はぷっとふき出してしまった。一瞬、翼と目が合う。
「舞川さん」
 あずに呼ばれて私は視線をそらした。
「物語のアレンジ、できる?」
「あ、あたし?」
「舞川さんは読書家だから脚本もイケるんじゃない?」
 それとこれとは別だろう。私はソフトに拒絶する。
「自信ない」
 しかし、女子二人から矢継ぎ早にリクエストが入る。
「あたし用にスポットライトのシーン作れる? お願いね、マイマイ!」
「あたしには泣きのシーンを用意して。プロの女優魂を見せてあげるから!」
「私は引き受けるなんて一言も」
 言いかけて気づく。誰も私の言葉なんて聞いてない。私も男子と同じ、発言権のない存在。このクラスの下層の住人だから。
「段ボール、もっと」
 つぶやく翼の声にかぶせてあずとルナが大声で言う。
「ねぇ、段ボールもっとない? 全然足りないんだけど!」
「こっちにもお願ぁい!」

 
 私は脚本の話から逃げたくてトイレに行った。手を洗ったり、前髪をいじったりして時間を潰していると男子の話し声が聞こえてきた。窓から下をのぞくとゴミ置き場で段ボールを集めている男子三人が見えた。
「なにが力仕事は男だよ。あいつら、こういうときだけ頼ってくれるよな」
「しょうがないよ。僕ら、男子だもん」
 話しているのは楓と龍之介。翼は黙って段ボールを集めている。

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