小説

『白雪姫と多勢に無勢のこびとさん』島田悠子(『白雪姫』)

「かわいそうな白雪姫。もし、私たちみんなの命を吹き込んでもあなたが生き返らないとしたら、一体、誰があなたを救えるの? お願い、目を覚まして。そして、私たちの代わりにお城に帰って。私たちの気持ちをママに伝えて!」
 ルナはあずに花を捧げてキスをする。そして、倒れ、舞台からはけた。
「ほかの姫たちがみな消えてしまっても、彼女は生き返らなかった」
 舞台にはあずと翼だけ。
「目を覚まして、白雪姫。みんな消えてしまった、僕はどうしたらいいんだ!」
 馬のいななきとともに、王子の楓が来る。白タイツが異様に似合っている。
「あなたは?」
「僕は隣の国の王子です。キミのそばで眠っているのはどこの姫君? まるで雪のように白く透き通った肌。なんて美しい人だろう!」
「白雪姫です。眠ってるんじゃない、彼女は死んでしまったんです!」
「でも、頬はこんなに赤く染まっている。リンゴのように真っ赤に」
「それでも姫は息をしていない!」
「なんということだ! 僕が恋におちた姫君はもう二度と目覚めない。それなら僕が国へと連れ帰り、姫のために盛大なお葬式をしてあげよう!」
「えっ?」
「こんなに美しい姫君はきっと世界中、どこを探したって白雪姫ただ一人だろう。彼女の代わりなんていない。僕が姫を連れて行く」
「待って! 待ってください、王子さま!」
 翼のママはまだ来ない。物語は終盤に入ろうとしていた。舞台袖から客席を見て私は待ち焦がれた。翼は今、どんな気持ちで演じてるんだろう。
 場面転換し、私は魔女の姿で鏡の前に立つ。
「鏡よ鏡、世界で一番、美しいのは誰?」
「白雪姫です」
「そうね、わかってる。かわいい娘たち。誰よりも美しい、愛する子供たち。鏡よ鏡、それなら、世界で一番、醜いのは?」
 鏡は答えない。
「答えて、鏡。教えて、私はなぜ魔女の姿から戻れなくなってしまったの?」
 鏡は答えない。私は泣き崩れる。
「きっと罰だわ! 私が悪い母親だから、これは罰なんだわ!」
 王様の龍之介が私の肩に手を置く。
「そうじゃない、かわいそうな妃。キミは自分で自分に呪いをかけているんだ。キミが自分を許し、娘を迎えに行くことが出来れば、元の姿に戻れる!」
「自分を許す? どういうこと?」
 翼のママに見てほしかった。
「姫たちを迎えに行きなさい。自分が間違っていたと思うなら、謝ることだ。全てはそこから。キミの本当の心は、自分を責めて一人泣いて暮らすより、姫たちと一緒に笑って暮らしたい、そうだろう?」
「今さら、どんな顔で!」
「私たちは家族だ。困ったときは抱え込まないで、もっと私にも頼っておくれ」
「王様」
 私と龍之介が抱き合うと、こびとの翼が走って来る。
「お妃さま、お妃さま!」
「あなたは、白雪姫と一緒にいた、こびと?」
「お妃さまに急いでお伝えしなければいけないことがあります!」
「森のこびと? どうした、言ってみよ」
「白雪姫が、死んでしまいました!」
「なんだって!」

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