その目が何かに似ていて、ああそうだあのオウム、冷蔵庫の上から持ってきて顔の横に並べるとそっくりだ。
ねえキョータロー、オウムのいるところにも行ったことある?
ポケットは空っぽだった。そのまま後ろ向きに、バタン。
【京太郎】
「わたしもあと30年くらいしたらあんな風に最強になれるのかな」
「無理だろ」
「そうだよね。ああいう図太さは30年ぐらいじゃ身につかないよねえ」
そういうことじゃなくて――という言葉は発さずに飲み込んだ。俺たちは窓から眼下のババアを眺めている。地上のガキに向かって何かをわめいているババア。
「昨日もあんな怒鳴り声聞こえてたような気がするな」
「毎日だよ、たぶん」
俺の薬を飲み息を吹き返した彼女は、のんきなもので出会ったときのマイペースを崩さない。気休めとばかり思っていたSCAT治療薬だが、どうやら少なからず効能はあるらしい。
俺はポケットに入れていた指輪をひとつつまみ、窓から放った。地面に落ちた音はしなかった。もうひとつつまみ、もっと遠くに投げてみる。
「20億回」
「何が?」
「人間の心臓が一生に打つ回数。SCATはそれを使い切るペースが早いだけだ」
「ふうん」
「鼓動が1億回に達するごとに、指輪をひとつはめることにしていたんだ。忘れないように」
「へえ。意外とロマンチストなんだ」
イツカが夜の新宿の街に視線をやって尋ねる。「今いくつなの」
「俺か? 28歳だけど」
「何抜けたこといってんの。指輪に決まってんじゃん、指輪の数」
それ聞くか、と俺は苦笑する。と同時に、この数時間でイツカのペースに自分の思考が巻き込まれていることに少し身震いした。
「19……かな」
「いいね。大好き、19」