小説

『カウント・オン』木江恭&結城紫雄【「20」にまつわる物語】

「うわあっ」
 はっとして頭をかかえ、ヒーヒーフーと身をよじり始める男。
「ちょっとなに産むつもり?」
「何回だ」
「は?」
 男が震え声で呟く。
「今何回だ、5万回か、10万回か……まさか、25万回か? 嘘だろおい、まだ半日しかたってねえのに……」
「ていうかなにか産めるの?」
 男が顔を覆ってうずくまる。そのままダンゴムシみたいに動かなくなってしまう。
 とりあえずわたしは立ち上がり、ポストカードを拾って冷蔵庫の上に置く。カラフルなオウムが羽を広げた写真の角っこが折れて茶色い染みがついている。あーあ。まあいっか。
「何回だ。なあ今何回なんだ、畜生……」
 男は小さな声で繰り返し続けている。ちょっと、いやかなりうるさいかもしれない。
 しゃがみこみ、スマートフォンを引っ張り出して男の後頭部をぶつ。途端にこちらをにらむ顔に画面を突きつける。
 男のぎょろっと開いた目ん玉がさっきのオウムのようで、ちょっとかわいいなんて思って、笑う。

【京太郎】
 ぶったりぶたれたり足からは血が出ているし散々な日だ。今日一日で一週間分の鼓動を使い切ってしまったに違いない。俺は半ば何かを諦めたように開け放たれた窓を見ていた。台所では少し前からコンロのやかんがピーピーと鳴き沸騰を知らせているが、対面のイツカは立ち上がる気配もなく卓上の指輪をもてあそんでいる。
 問い詰めたいことは山ほどあったがどうにも的を射た答えが返ってこない。名を聞いたときですら返事が返ってきたのはたっぷり30秒後だったし、「イツカ」のイントネーションは完全に疑問形だった。名前すら覚えていないのか? 鳥かこいつは。
「それさ」
 俺は机の上のスマホを顎でしゃくった。
「どうしてくれんだよ」
 イツカが俺の頭をコイツでぶんなぐったせいで、画面には亀甲占いのようなヒビが入っていた。画面は不吉な明滅を繰り返しており、外装だけでなく内部にも深刻なダメージをきたしているらしい。どんだけ全力で振り下ろしてくれたんだ。愛機の惨状に身を震わせた俺は後頭部にそっと手を当てる。
「え? なに?」イツカがこちらに体を傾けた。
「ピー」

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