小説

『カウント・オン』木江恭&結城紫雄【「20」にまつわる物語】

「あるわけねえだろ。これは俺が行くずっと昔の写真だ」
 この後、くそみたいな場所に、なるんだ。キョータローはカードを撫でながらゆっくりと言う。
「やっぱり静かな場所が好きなんだね?」
「何がやっぱりなんだよ。ていうかおまえ、俺の話聞いてたか?」 「いいなあ」
「だからなにがだよ……」
 とキョータローがとんがった声を出す。
「くそだって言ってんだろうが。そりゃ昔は海岸線が名物の一大観光地だったが、地中海自治同盟って連中が独立宣言してからはずっと最前線だ、俺が行ったときも」
「行ってみたいなあ」
「話を聞け」
 キョータローは机の上の指輪を掴んでじゃらじゃらと鳴らす。要る? って聞いたらもともとおれのだとにらまれた。あっそういえばそうだっけ。っていうかなんでこの人ここにいるんだっけ。
「なんでいるの?」
 キョータローは少し黙った。
「お前は?」
「ん?」
「ガキだろ。ひとりか?」
 質問に質問で返しちゃいけないって習わなかったのかなこの人。
「ここにいなさいって言われたからいるの。いい子にしていなさいって」
「誰に」
 答えようとして、突然ぐわんと頭が回った。
 息が早くなる。首の後ろでハンドベルを振り回すみたいにドクドクドクドク、リズムが早い。
「イツカ?」
 あっしまったまた忘れてしまった、だからか。ポケットに手を突っ込んでアマゾンの毒蛇みたいな紫と黄緑色のお薬を探す。ちなみに蛇のカードは左から3番目、けっこうお気に入り、お薬、最後に飲んだのはいつか思い出せない、前に薬をもらいに行ったときは外がすごく暑かった。
 父さんごめんなさい、イツカは悪い子です。
 がちゃがちゃがちゃん。指輪が床に跳ねる。キョータローが瞳孔をぎりぎりまでかっぴらいてこちらを見ている。
 おまえ、まさか。

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