小説

『白雪姫的恋の見つけ方』小高さりな(『白雪姫』)

 大野という男が初めての彼氏だった。友達主催の飲み会で、知り合い、デート一回目で、会って二回目で、告白された。
 人から好きだと言われたことのない里香は舞い上がり、首を縦に振った。大野はお喋りだった。里香はいつも黙って聞いていた。彼のおしゃべりで頭をどんどん埋め尽くされ、余計なことを考えないで済む。
 初めてのキスも、その先もした。
「前の彼女も初めてだったんだよ。初めてに縁があるのかな」
 痛みで体を少し丸めて横たわる里香の肩を持ってぐるりと回転させて、あおむけにさせ、大野は里香にまたがった。
「慣れた方がいいから」と言って、腰を動かす大野を眺めながら、自分が道具になった気がした。こんな気持ちになるのなら久保さんとすれば、よかったのかもしれない。そう思う自分は悲劇のヒロインぶってって気持ち悪い。会っている間、大野のおしゃべりは止まらない。大野は無神経に里香を逆なでするような言葉を放つ。矢尻についた毒がじわじわと体をむしばんでいくようだ。
「バックでしかいったことなかったけど、里香とは正常位でいける」
「顔は前の彼女の方が好みなんだよね」
 嫉妬の気持ちを起きなくて、ただただ面倒という気持ちが募っていく。大野の気持ちが分からないし、分かりたいと思えない。よく分からない。彼とは趣味も、過ごし方も、考え方も全く違うことが合う回数を重ねるごとに浮き彫りになった。共通の趣味もないので、することがなくて、ホテルに行く。
「つけないで、いれたい」
 大野が言うと、火照った体とは反対に脳みそが冷え切って、現実に戻る。なにもかもが不潔で汚らしく思う。
「赤ちゃんできたらどうするの?」
「そしたら、結婚しよう」
 刹那的な嘘。軽々しく口にした。薄っぺらな言葉。愛なんかじゃない。ただ、ただ、冷めてしまった。
 生でする>コンドームをつけてする>途中でおわる、という大野の頭の中の不等号がくっきりと見えた。薄暗い中で背中を丸めながら、コンドームをつける様に笑い出したくなる。自分から出るうそっぽい喘ぎ声がいつまでも耳に残った。
 心がつながっていなくても、セックスが気持ちよく感じるのもひどく屈辱だった。自分がひどく動物的だ。でも、人間だって動物なのだと反芻する。
 どうしようもなく眠たくなって、ホテルに行って、「ごめんね」とだけいって眠りに落ちたことがある。里香は眠くて、眠くてたまらなかった。どれくらい寝たかはわからないが、深い眠りから覚めて、ぼんやりしたままの頭まま申し訳なくなって、自分から「する?」と聞いた。

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