小説

『白雪姫的恋の見つけ方』小高さりな(『白雪姫』)

 手っ取り早いハッピーエンドを取り逃がした気がして、ひどく醜い顔をしていたと思う。里香だけの王子様はどこにいるのだろう、里香は早足で街を歩いた。

27 years old.
 自分がキューピッドになって付き合い始めて、それがきっかけという訳ではないが、合コンから足が遠のくようになった。
 増えていく連絡先、今日はありがとうございました。また、ぜひの社交辞令で埋まっていくメール。意味があって、無いようなものが一番疲れる。そういったものから、離れたくなった。誘いを断り、誘わなくなり、を二、三度繰り返したら、付き合いは簡単に消滅した。
 恋はタイミング、フィーリング、ハプニングと言うが、今回はタイミング、時が味方した。というのも全部結果論で、彼が恋人と別れたことを知った。
 何の駆け引きもなく、自分でも驚くほどに穏やかに始まった。食事や会話のペースも。
食事に行って、二人で出かけることを重ね、話が合い、付き合うことになった。最初からそうだとぴたりと決められていたように、寄り添うことが自然だった。
 両想い、恋人、カップル、今まで苛立っていた言葉も愛らしく、愛おしいと感じられる。幸福に浸っていればいいのだが、この次はどうすればいいのか分からない。
 彼と手をつなぐ。けれど、キスもしない。セックスも。私の方がきっと彼と早くセックスをしたかったけれど、どうしたらいいか分からなかった。不安だった。人としばらくの間、体を重ねていなかった。
 大事にされているから、と、彼は本当に私を好きなのか、と不安な気持ちに振り子のように大きく揺れた。公園で聞いた。雲一つない晴天、青い空が眩しい。冗談だといえるような軽い気持ちで、深刻さを少しでもまぎらわそうとした。
「寝たいって思わないの?」
「寝て、起きたばかりだよ。今日は」
 彼はそう言って、目尻にしわを寄せ、里香の好きな笑顔になる。今日は胸が苦しい。手を彼と合わせ、指を絡める。風の音だとかピクニックを楽しむ家族の声だとか聞こえてきて、自分が場違いなことを聞いたのだとじわりじわりと後悔が押し寄せる。
 寝っ転がって、空を見上げる。彼がどんな顔をしているのか見るのが怖かった。池の底に沈んでいくように音が遠のいていく。彼はごく自然に言った。
「寝たいよ」

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