小説

『白雪姫的恋の見つけ方』小高さりな(『白雪姫』)

23 years old.
 里香はおとぎ話のプリンセスが好きじゃない。特に白雪姫の話には、イライラする。狩人に助けられ、七人の小人に助けられ、眠って待っているだけで王子に助けられ、いつの間にかハッピーエンドなんて都合が良すぎる。
 苛立ちを感じはじめた翌朝、パンツを赤い血が濡らしていた。初潮から、もう十五年経つのに、いつもこんな風に女性ホルモンに振り回されて、イライラする。数日前からちくちくと痛み始めた子宮が今はずきずきと鈍く深く痛む。
 白雪姫にも、生理痛や生理前のイライラなんてあったのか。それは分からないけれど、プリンセスはきっとみんな処女だったと思う。
 冷水で血の付いたパンツと汚したシーツを洗った。指先がかじかむが、冷たい水で布きれを洗いながら、初潮が来る前のことを思い出した。
 里香は小柄で、やせていたから中学生一年生になっても初潮が来なかった。そのことがコンプレックスで、だれが初潮を迎えたか、予想を立てて、メモをつけていた。クラスメイトの女子の名前を書いていき、生理用品の入っていたポーチを持っていたあの子、水泳を元気そうなのに休んだあの子、発育のよいあの子と名前の横にSと書いた。
 中学一年生の冬、初潮が来たときはうれしいでもなく、ほっとした気持ちが大きかった。掃除の時間、階段をほうきで掃いていると、同じ班のメグミがそっと近寄ってきた。
「ちょっと、いいかな?」
 メグミの深刻そうな顔をしていた。メグミと並んで、階段の段差に腰を下ろした。
「私、まだなんだよね、あれ、女の子の日」
 意外だと思った。メグミは背も高く、体格がよいからてっきり生理がきているものと思っていたし、リストでもメグミの横にはSが付けていた。
 里香は生理が来ていたけれど、始まってしまえば、閉経、十三歳の里香にとっては閉経するであろう五十、六十は到底訪れないような途方もなく遠い未来のような気がしていたから、女にだけしかない月に一回の日を疎ましく思い始めていた。
 メグミは生理の始まる前の自分を見ているようで、同情とすこしの優越感に浸ったが、それはメグミの一言ですぐに打ち砕かれた。
「里香ちゃんも、まだでしょう?」
 馬鹿にされたと悔しく思った。メグミに同類だと思われた。だから悩みを打ち明けられたのだ。あの時はメグミを腹立たしく思っていたが、今はメグミの気持ちが分かる。今の里香は、処女だということに悩んでいる。
 性的な悩みというのは、どこまでも付きまとう。おおっぴろげに話すものではないけれど、あの子はもう経験済み、あの子はしてそう、みんな頭の中で考えているに違いない。

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